研究課題
始源隕石コンドライトや地球型惑星の主要元素組成は,初期太陽系での元素分別過程で決定されたと考えられる.主要元素であるマグネシウム・ケイ素の存在比が地球と始原隕石コンドライトで異なることが知られており,この分別過程の鍵となると考えられるのは,フォルステライト(Mg2SiO4)とケイ素に富んだガスとの低圧条件下での反応によるエンスタタイト(MgSiO3)形成による固体Mg/Si比の変化過程である.本研究では,初期太陽系を模擬した低圧条件でエンスタタイト形成実験をおこない,その反応速度を決定する.結果を基に初期太陽系円盤でのエンスタタイト形成効率を推定し,Mg/Si分別が起きる条件およびコンドライトや地球の元素組成の関係を議論する(結晶分化の残渣がエンスタタイトコンドライトであるという新たな仮説の妥当性を検討する).エンスタタイト形成の基盤となるフォルステライトの低圧下での形成プロセスの理解が不十分であることもあり,フォルステライト形成過程を実験的にまず解明した.具体的には,水蒸気存在下ではフォルステライトの蒸発が抑制されること,ただし,低温条件においては,水蒸気による抑制の効果は熱力学的予想ほどには効かず,水素による蒸発促進の効果が卓越することがわかった.また,フォルステライトの低圧水素・水蒸気雰囲気での気相成長の反応障壁は蒸発の反応障壁と同程度もしくは小さいことが明らかとなった.
2: おおむね順調に進展している
エンスタタイト形成プロセスの前段階であるフォルステライト形成に関する反応速度の実験的解明が完了した.特に水素,水蒸気といった原始惑星系円盤に存在する反応性の高い主要ガスの影響が明らかになった.(1)フォルステライト蒸発は水素中では促進されるが,水蒸気存在下では抑制されることが予想されてきた.しかし,これまで実験的に確認されてはいなかった.本研究により,水蒸気存在下では蒸発が抑制されることが示された.ただし,低温条件においては,水蒸気による抑制の効果は熱力学的予想ほどには効かず,水素による蒸発促進の効果が卓越することがわかった.(2)フォルステライトの低圧水素・水蒸気雰囲気での気相成長の反応障壁は蒸発の反応障壁と同程度もしくは小さいことが明らかとなった.エンスタタイト形成の基礎実験もおこない,実験条件を決定した.
今年度はエンスタタイト形成反応速度を決定し,初期太陽系での元素分別を議論する.エンスタタイト形成実験の条件を決める基礎実験はすでに完了している.研究代表者の異動に伴い,装置の移動をおこなう必要があり,実験時間が限られる場合には実験条件を絞り込んで実施する.
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すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 11件、 招待講演 2件)
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