研究課題/領域番号 |
16H04085
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
清水 一男 静岡大学, イノベーション社会連携推進機構, 准教授 (90282681)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | マイクロプラズマ / 経皮吸収 / ドラッグデリバリー |
研究実績の概要 |
約1 kVで生成した大気圧マイクロプラズマを皮膚に照射後,薬剤を塗布することでプラズマ照射による経皮吸収向上の検討と皮膚界面のプラズマ照射による物理化学変化を観測した。皮膚サンプルには6ヶ月,雌のYucatan Micropig(日本チャールス・リバー)の背中部位を使用した.皮膚は表皮層,真皮層,脂肪層の三層構造となっているので、脂肪層を皮膚から除去した後,円形に打ち抜き,リン酸緩衝液(PBS)に3時間浸漬した.浸漬後の皮膚を60℃に設定した蒸留水で1分間温め,ピンセットを用いて表皮層を真皮層から剥離したものを皮膚サンプルとして用いた。 対象薬剤にはシクロスポリンAを用いた。分子量は約1200g/molの親油性薬剤であり、免疫抑制剤として用いられる。プラズマ未照射時には経皮吸収は認められないが、マイクロプラズマ5分照射後に20ugの経皮吸収が得られた。 XPSおよびFTIRによる皮膚サンプルの化学構造変化を分析したところスペクトル中に存在するピークはそれぞれCH2対称伸縮振動(2847~2855 cm-1),CH2非対称伸縮振動(2915~2924 cm-1)に起因するものであり、角質層内における皮膚を外部より保護する機能を特徴づけるものであるが、これらのピークに変化が認められた。CH2伸縮振動に起因するピーク減少は角質層自体の減少や皮膚表面部の改質を伴い、結果としてバリア機能の低下に繋がるものと考えられる。この結果よりマイクロプラズマ照射による角質層バリア性の低下可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ヘアレスユカタンマイクロピッグの角質層を対象にマイクロプラズマ照射を行ったところ、薬剤類経皮吸収促進される結果が得られた。マイクロプラズマ照射には皮膚サンプルとプラズマ電極との照射距離を0.5~1.0 mm一定として5分間行った。比較として大気圧プラズマジェットを用いて、Arガスを5 L/minで供給してピッグスキンへの経皮吸収促進の検討も行った。大気圧プラズマジェットの駆動電圧は4.0 kV, 16 kHzであり、サンプルへの照射距離は2.0 mmとして照射時間を10秒、30秒、1分および5分とした。プラズマ照射後に皮膚サンプルに所定量を塗布した薬剤類の透過量をHPLCで定量化した。また皮膚サンプル表面はFTIR-ATR法によって、その構造変化および経皮吸収促進される機構を探るためXPS,FTIR分析を行った結果、脂質2重層でのバリア性の緩和現象などの機構が解明されつつある。
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今後の研究の推進方策 |
マイクロプラズマ照射には現在までの研究で得られた皮膚組織における脂質2重層でのバリア性の緩和現象などの機構、これは化学的組織構造変化であるが、それに加えてプラズマで生成されるイオンなどによる物理的な表面改質効果も考えられる。薬剤類経皮吸収促進効果の機構詳細は未だ明らかではないが、プラズマ照射により、被照射物である皮膚表面温度が照射時間、パワーに依存して一時的に高くなるため、脂質二重層の乱れが一時的な皮膚バリア機能緩和に繋がっているものと考えられる。この結果より他の物理的経皮吸収促進効果と同様、温度上昇は一つのカギになっている事が示唆されているが、プラズマ照射が他の物理的手法と異なるのは角質層における温度上昇の効果に加えて、イオンエッチング的な効果による角質層自体の減少や活性種による皮膚表面の脂質分の分解効果など複合的な作用によって薬剤類の経皮吸収促進効果が促進されるものと考えられるため、TEMなどによる皮膚サンプル内のラメラ構造変化など物理的作用についても探り、経皮吸収効果の促進に加えて、吸収機構解明を引き続き行う計画である。
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