研究課題
平成30年10-31年2月の5か月間,LHDで重水素実験を実施した.実験前に新たに中性子遮蔽を追加した.非常に大きな効果があり,機器運転に関して大きな支障を完全に排除することに成功した.また,CCD検出器の中性子影響についても研究を行い,雑音の59%が中性子由来の雑音であり,残りの41%はγ線由来の雑音であることが判明した.スペクトルの蓄積やソフトウェアプログラミングにより雑音を除去できることも実証した(RSI誌 89(2018)10I109).平成30年度にはタングステンイオンの密度計測をLHD実験で試みた.複雑なUTAスペクトルから特定のイオン価数を狭い波長幅で抽出することに成功し,その空間分布から電子温度・密度分布及びADASコードで求めたスペクトル放射係数を使用し,首尾よく密度分布の導出に成功した(JJAP誌 57(2018)106101).HL-2A装置(中国・成都・西南物理研究所)でレーザーブローオフ法を用いてタングステンを入射し,LHD実験で得た知見を基に,低価数のタングステンイオンの観測を行った.首尾よくWVIIスペクトルを216Å及び261Å位置で観測・同定することができた.EUV分光器の絶対感度較正,ADASコードを用いた放射係数計算を通して,W6+イオンの流入束を評価することに成功した(Nucl.Fusion誌 59(2019)016020-).この結果はITER実験でのタングステン流入束評価に大いに貢献する.また,EAST装置(中国・合肥・等離子体物理研究所)では,タングステンスペクトルの空間分布計測を行った.LHD実験でのデータ解析を基にしてEAST分光データを解析した結果,プラズマ中心部に位置するW42+,W43+及びW45+イオンの密度分布を導出することに成功した(NIM誌 A916(2019)169).
1: 当初の計画以上に進展している
本研究の目的であるタングステン不純物の定量評価について研究は着実に進展している.平成29年度には,タングステンの代表的なイオンスペクトルであるUTAと呼ばれる疑似連続光の空間分布観測に成功し,低電離タングステンスペクトルや可視域禁制線(例えば磁気双極子禁制線)の観測にも成功した.UTAスペクトルの詳細な分析の結果,数か所の波長位置でW24+(32.28-32.39Å),W25+(31.14-31.25Å),W26+(29.91-30.02Å)イオンの定量解析が可能であることが分かった.分光器の絶対感度較正,空間分布の磁気面座標への再構成,独自開発したCRモデルやADASコードによる放射強度計算を行い,上記タングステンイオン密度算出への見通しを確かなものとした.また,中国のタングステンダイバータ・EASTトカマクでは,NBI加熱Hモード放電においてプラズマ中心部でのタングステンスペクトル空間分布データを観測した.HL-2Aトカマクでは,W6+という低電離タングステンイオンからのEUVスペクトルを核融合プラズマでは初めて発見した.これらの成果を受けて,平成30年度にはUTAスペクトルの空間分布から上記イオンの密度空間分布を導出することに成功した.入射したタングステン量と比較した結果,得られたタングステンイオン密度は非常に妥当な値を示した.またEASTトカマクではHモード放電中のプラズマ中心部に位置するW42+-W45+イオンの密度を算出した.HL-2Aトカマクでは,観測したWVIIスペクトルの絶対強度からタングステン流入束を評価することに初めて成功した.本研究で得られつつあるタングステンイオン密度の絶対評価に関する成果は,ITER実験におけるタングステン輸送研究に向け,非常に大きな知見をなす.
平成28年度は主に重水素実験に向けて装置改良に力を注いだ.同時にEUVスペクトルを検出するCCD検出器の中性子及びγ線影響についても定量的な研究を行い,検出器の遮蔽には鉛とポリエチレンの適度な組み合わせが重要でることが分かった.平成29年度には,タングステン空間分布観測とUTAスペクトルの詳細解析を行った.平成30年度には,UTAスペクトルからイオン密度を首尾よく求めることに成功した.また,中国・EASTトカマクでは,平成30年度までに,空間分布観測を実現し,プラズマ中心部でのイオン密度を大雑把に算出した.中国・HL-2Aトカマクでは,低電離タングステンイオンスペクトルであるWVIIをEUV領域で初めて観測・同定し,それを基にタングステンイオンの流入束を評価することに成功した.平成31年以降には,タングステンイオンの冷却係数や電離・再結合係数の評価を行う.また,これまで得られたタングステン分光に関する知見を不純物輸送研究に応用する.中国・合肥・ASIPPのEASTトカマクでは,平成30年度の実験でHL-2A装置同様WVII等の低電離スペクトル観測に成功している.そこで,プラズマ中心部でのタングステンの振舞いに加えて,長時間放電でのプラズマ周辺部でのタングステンの輸送研究を新たに開始する.LHD実験で得られた知見を基に,Hモード放電等におけるタングステンイオン密度を正確に評価し,放電形態によるタングステン輸送の違いを明らかにする.EASTでは平成31年度に下側ダイバータにもタングステンが装着される予定になっており,平成31年度後半からは完全金属装置でのタングステン輸送研究が可能になる.成都・SWIPのHL-2Aトカマクでは,タングステン流入束制御を目的にRMP磁場等を用いて共同研究を実施する.以上の結果を通してITER実験への貢献を目指す.
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 10件、 査読あり 11件) 学会発表 (22件) (うち国際学会 11件、 招待講演 3件)
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