研究課題
令和元年10-2年1月の4か月間,LHDで軽水素・重水素実験を実施した.平成30年度の実験で計測機器の安定動作に関して中性子遮蔽の有効な機能が確認できたので,平成31年度にも中性子遮蔽を拡充した.EUV領域でのタングステンスペクトル空間分布を観測・解析し,より広い範囲のタングステンイオン荷数の定量的解析が行えるようになった.この成果は,診断に用いるタングステン不純物イオンの領域拡大につながり,より広範囲の径方位置でのタングステン不純物診断が可能になった.また,LHD実験では,タングステンの流入束の抑制を目指して,新たに外部RMP磁場印可による磁気島生成を利用した研究を開始した.ITERでのタングステンイオンとLHDでの鉄不純物は,衝突頻度がほぼ同等なため,鉄不純物を用いて実験を行った.首尾よく,ある閾値以上のRMP磁場コイル電流のところで,鉄不純物イオンが抑制できることを発見した.FeXVやFeXVIスペクトルの2次元分布を観測することにより,それらの不純物イオンが磁気島内に閉じ込められていることを確認した.LHDでの観測・解析結果を参考にして,EAST装置(中国・合肥・等離子体物理研究所)で,タングステンスペクトル強度の時間変化や空間分布形状を観測した.その結果,プラズマ中心部に位置するW42+,W43+及びW45+イオン密度はNBI加熱を行うと顕著に増加し,不純物蓄積の発現を確認した.しかし,ECHやLHW等の波動加熱を追加すると,不純物蓄積は大きく緩和されることを見出した.現在その理由を探求すべく,不純物輸送コードの整備を行っている.一方,HL-2A装置(中国・成都・西南物理研究所)では,これまで得られていたW6+イオンEUVスペクトルの径方向発光分布を観測する準備を進めた.これが実現すれば,ダイバータからの低荷数タングステンイオンの輸送研究が大きく進展する.
1: 当初の計画以上に進展している
平成28年度には,タングステンの代表的なイオンスペクトルである疑似連続光(UTA)の空間分布観測に成功し,低電離タングステンスペクトルや可視域禁制線観測にも成功した.UTAスペクトルの詳細な分析の結果,数か所の波長位置でW24+(32.28-32.39Å),W25+(31.14-31.25Å),W26+(29.91-30.02Å)イオンの定量解析が可能であることが分かった.平成29年度には,分光器絶対感度較正,磁気面座標への空間分布再構成,CRモデルやADASコードによる放射強度計算等を行い,イオン密度算出に向けた準備を進めた.平成30年度にはUTAスペクトル空間分布からイオン密度空間分布を導出した.入射したタングステン量との比較から,得られたタングステンイオン密度は妥当な値であることを実証した.平成31年度には,定量解析を他のイオン荷数に拡張すると共に,タングステン流入束抑制のための新たな実験をLHDにおいて鉄不純物を用いて実施した.RMP磁場印可により顕著な不純物抑制を観測した.定常放電維持に向けた不純物制御に関して大きな足掛かりを得た.また,中国のEAST及びHL-2Aトカマクでも,タングステン不純物輸送に関する研究を進めた.EASTではタングステン空間分布観測を進め,NBI加熱Hモード放電での不純物蓄積やECH・LHW等の波動加熱時の不純物抑制を観測した.Hモード放電でのタングステン密度を解析し,プラズマ崩壊との関係を定量的に明らかにした.また,タングステン密度とELM周波数の関係も明らかにし,RMP磁場等,ELM周波数を高める放電制御の重要性を指摘した.HL-2Aでは,W6+という低電離タングステンイオンからのEUVスペクトルを初めて観測し,その絶対強度から流入束評価に成功した.ITER実験におけるタングステン輸送研究に向け,着実な成果が得られている.
CCD検出器雑音の中性子及びγ線影響に関する定量的研究を基に計測機器の改良を進めた結果,安定した計測機器動作を実現した.タングステン空間分布観測とその解析を進め,イオン密度を首尾よく求めることに成功した.可視領域ではタングステン磁気双極子遷移を観測することにも成功し,その空間分布からW26+やW27+イオンの密度評価を行った.中国・EASTトカマクでも空間分布計測機器を整備し,Hモード放電や波動加熱プラズマでのタングステン不純物の挙動を解明しつつある.一方,中国・HL-2Aトカマクでは,低電離タングステンイオンからのEUVスペクトルを初めて観測・同定し,タングステン流入束の評価に成功した.令和2年にはタングステンイオンの放射冷却係数の実験的評価をさらに進める.冷却係数の精度の高い理論値は存在しないので,実験から類推するしか現在では手立てはない.また,LHDではRMP磁場を利用した積極的な金属不純物抑制実験も本格化させる.一部の実験はすでに行っており,不純物流入抑制に向け非常に良い結果を得ている.EASTトカマクでは,今夏以降に下側ダイバータへタングステン材料が設置され,完全な金属壁装置となる.ITERでの長時間放電を実験的に模擬することが可能になる.これまでの研究の成果により,タングステン不純物の定量化については,コアプラズマ領域では高精度の解析が可能になりつつあり,高性能長時間放電でのタングステンの輸送研究が本格化する.必要な準備を進める.HL-2AトカマクではWVII観測を利用したタングステン流入束の評価法の確立を進めてきたが,現在そのスペクトルの空間分布観測を準備しつつある.空間分布が観測できれば,ダイバータとの磁力線を介した関係が明らかになり,タングステンイオンの周辺プラズマでの輸送解析に大きな進展となる.以上の結果を通してITER実験への貢献を目指す.
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 4件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 6件、 招待講演 2件)
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