細胞膜へ作用する物質には抗菌性分子(生体由来、人工物)やウイルスなど多様なものが存在し、それぞれが固有の機構にて作用している。これらの作用機構に対し非平衡度がどの様な影響を及ぼすのかを明確化することを目的に、薬剤分子として、これまでに知られている抗菌性ペプチドのほか、抗菌性金属ナノ粒子、金属酸化物クラスターなど、サイズ・形状・電荷分布などの異なる薬剤に関して非平衡度依存性の差異を体系的に分類する実験を行った。これにより、生体内の非平衡度が分子間相互作用へ及ぼす影響を明確にすることに成功した。例えば、アミロイドβペプチドと細胞膜との相互作用を脳脊髄液流動を模倣した非平衡空間内で評価した結果、平衡空間場とは異なる分子間相互作用ならびに自己集合プロセスが発現することが明らかとなった。本結果は、生命システムにおける非平衡度の維持が各種分子機構の制御に顕著な影響を及ぼしていることを示唆するものである。 また、パターン形成に関しては、ゼラチン・糖混合溶液系のゲル化過程による構造形成における非平衡度依存性の検証を行った。その結果、反応空間のサイズ・形状等により発現する構造がラビリンス型、周期構造型、ランダム型の間で遷移する現象を見出し、本研究の目的としていた自然界のパターン形成の「選択律」を解き明かすための実験的指標を得ることに成功した。得られた現象は、ゼラチン・糖混合溶液の相分離とゲル化の相互作用によるものであることが提案された。
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