研究課題/領域番号 |
16H04093
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
若狭 雅信 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (40202410)
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研究分担者 |
矢後 友暁 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (30451735)
加藤 隆二 日本大学, 工学部, 教授 (60204509)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | Singlet Fissionの磁場効果 / スピンダイナミクス / 励起子ダイナミクス / 三重項励起子移動モデル / 統計リュービル方程式 / 超強磁場 / ジェフェニルへキサトリエン |
研究実績の概要 |
Singlet Fissionを真に理解するためには,スピンおよび励起子ダイナミクスを含むメカニズムの解明とSinglet Fissionの量子収率をきちんと決定する必要がある。そこで平成28年度は,以下の研究を行った。 (1)超強磁場分光測定装置の構築:10 T強磁場下で,有機結晶の発光強度を高精度に測定できる超強磁場分光測定装置を構築した。本応募で購入した波長可変装置(300-500 nm発生,532 nm励起OPO,倍波)により,紫外から可視光領域において波長可変で試料を励起し,蛍光を測定できるようにした。結晶の配向がSinglet Fission効率の重要なパラメーターになるので,磁場面内で結晶の方向を変えられるように回転ステージを持つサンプルホルダー(非磁性)を設計・製作した。 (2)Singlet Fission分子の蛍光強度の磁場効果:開発した装置を用いて,ジェフェニルへキサトリエン(DPH)の粉末と単結晶について,蛍光強度の磁場効果を詳細に測定した。 (3)統計リュービル方程式を用いた理論的解析:三重項対の励起子ダイナミックを結晶の格子間距離や配向,励起子移動の方向等を取り入れてSLE解析し,交換相互作用が大きい近接三重項対の挙動と蛍光強度の磁場効果の関係を詳細に解明した。その結果,10 Tまでの磁場下での磁場効果を,dipの位置および全体の磁場効果の大きさまで再現することができ,我々の三重項励起子移動モデルでSinglet Fissionのメカニズムを説明できることがわかった。 (4)時間相関単一光子蛍光測定:研究の進展に伴い,ピコ秒発光寿命のに対する磁場効果測定も行い,磁場の影響を受けないフィッション速度を実測し,SLE解析に用いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
10 Tまでの強磁場下,有機結晶の発光強度を高精度に測定できる超強磁場分光測定装置の開発を完了した。ジェフェニルへキサトリエンの詳細な磁場効果を測定,SLE解析で磁場効果およびSinglet Fissionのメカニズムを解明した。これらの成果は,すでに論文(J. Phys. Chem. C)に発表した。さらに,単結晶を用いた磁場効果の異方性測定を目指して,マグネット中で回転できる非磁性のサンプルホルダーも完成し,予備的なデータを得ている。加えて,新しいSinglet Fission材料の探索も開始しており,ジェフェニルへキサトリエンのフッ素置換体がSinglet Fissionを起こすこと見出している。
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今後の研究の推進方策 |
今後(平成29年度以降)は,28年度に完成した装置を用いてより詳細な測定を行うことで,Singlet Fissionのメカニズムの一般化と新しいSinglet Fission材料創製の指針を得ることに焦点を絞って研究を進める。具体的には,結晶構造と異方性の問題は,励起子ダイナミクスがSinglet Fissionにいかに影響を及ぼすかの核心であるので,まずは開発した回転ステージを用いて蛍光強度の磁場効果とその異方性を測定し,SLE解析によってどのような励起子移動がSinglet Fissionの効率をアップさせるかを明らかにする。加えて,Singlet Fission効率の定量は,本研究の要であるので,単結晶もしくは粉末のジェフェニルへキサトリエンを用いて三重項-三重項(T-T)吸収を測定,さらにその磁場効果を測定することでSinglet Fission効率を始めて実測する。単結晶もしくは粉末のT-T吸収の磁場効果測定は非常に困難な課題であるので,必要にお応じて,極低温でのリン光測定等に研究手法をスイッチすることも検討する。
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