研究課題
水界面は,生体反応,大気反応など様々な場において重要な役割を演じているといわれている.その厚さは,分子数層程度の大変薄い領域であるにもかかわらず,反応性や物質透過性がバルクと異なっているため,近年,多くの実験,理論計算が行われてきた.本研究は,主に水界面の分子構造とダイナミクスを分子動力学シミュレーションにより解明することを目的としており,基礎的な空気/水界面の問題から脂質膜のような生体分子/水界面の問題を扱う.特に,界面水構造をプローブする唯一の実験観測量である和周波発生スペクトルを分子シミュレーションにより計算することにより,界面構造やダイナミクスの詳細を議論する.今年度は,空気/水界面については,水の変角振動の問題,水素結合OH伸縮振動のダイナミクスの問題を理研グループとの共同研究として発表した.これまで,界面振動分光として用いられた和周波発生分光実験では水のOH伸縮振動領域のみ注目されてきたが,今回はHOH変角振動の問題を扱い,後者では比較的バルクの寄与が無視できないことが明らかになった.このことは,今後の変角スペクトルの基礎的知見を与えるものである.さらに,OH伸縮振動のダイナミクスに関しては,これまで界面第一層にある水の水素結合OHの振動緩和が遅いと主張されてきたにもかかわらず,本研究では,バルクと同程度に緩和が速いことが明らかになり,今後の界面反応等を考慮する際の重要な知見を与える成果が得られた.また,氷表面において表面第二層の融解の振る舞いが,マックスプランク研究所との共同研究で明らかになり,表面第二層の氷は250Kくらいの温度で段階的に融解することが明らかになった.
2: おおむね順調に進展している
本年度は,水表面については変角振動,振動ダイナミクスという新しい研究領域の開拓に関わる成果が得られた事に加え,氷表面の問題に関しても大変興味深い新たな知見が得られ,研究はおおむね順調に進展しているといえる.
水界面については,生体膜/水界面における分子構造の問題にも取り組んでいる最中である.これまでは,脂質二重層膜として最も基本的な双性イオン型の1-Palmitoyl-2-oleoyl-sn-glycero-3-phosphocholine (POPC)リン脂質/水界面の問題を扱い成果を報告したが,現在は,脂質分子の頭部基が異なる1,2-dipalmitoyl-sn-glycerol-3- phosphatidylethanolamine (DPPE)リン脂質/水界面の問題を扱っている.DPPEの問題では,頭部基にNH結合があり,OH伸縮振動領域と重なっているため慎重な考察が必要である.
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (20件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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