研究課題/領域番号 |
16H04096
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
福井 賢一 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (60262143)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 表面・界面 / イオン液体 / 拡散機構 / 光電子分光 / 原子間力顕微鏡 / 分子動力学計算 |
研究実績の概要 |
不揮発・難燃性でかつ広い電位窓をもつため,二次電池等の電気化学デバイスの溶媒且つ電解質として期待されているイオン液体(IL)の溶液中で,溶液の粘性から予想される以上に溶質イオンの速い拡散が起こり得ることが示唆されている。本研究では,開発した新たな界面分析手法を駆使して,イオン液体中での金属イオン,特に二次電池などの電気化学デバイスのエネルギーキャリアとして期待され,アニオンとの配位が比較的強いLi+,Na+, Mg2+, Al3+に特に注目して,粘性の制限を超えたイオン液体バルク中での拡散の機構,界面偏析,電極近傍での振る舞いを明らかにし,効率的な金属イオンの拡散を可能とするイオン液体の化学設計や高い密度でのエネルギー貯蔵を実現できる界面構築につなげて行くことを目的とする。 H29年度は,申請者らが開発したEC-XPS,電気化学周波数変調AFM(EC-FM-AFM)および角度分解XPS,分子動力学(MD)計算を用いて以下の3項目の研究を実施した。 ①tailored IL薄膜を利用したイオン液体/電極界面近傍での金属イオンの垂直方向の動きの解析;②高表面積電極での溶質金属イオンの濃縮と拡散過程;③溶質金属イオンが与えるイオン液体界面電気二重層の構造化と応答の直接評価 ①については,上記金属イオンの濃度が異なる層を重ね合わせたtailored IL薄膜を金基板上に作製し,薄膜内での垂直熱拡散の挙動を角度分解XPSで解析した。基板近傍でのILの構造化に伴い,基板近傍での金属イオンの拡散が極めて抑制されることが分かった。②については,nmの細孔をもつメソポーラス材の中で,イオン液体に溶解した金属イオンが濃縮される現象についての解析とそれに基づく機構モデルの構築を行った。③については,MD計算により,電荷をもたせたグラファイト基板近傍での金属イオンの拡散能の変化を確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H28年度の実績に基づき,H29年度は,申請者らが開発したEC-XPS,電気化学周波数変調AFM(EC-FM-AFM)および角度分解XPS,分子動力学(MD)計算を用いて以下の3項目の研究を実施した。 ①tailored IL薄膜を利用したイオン液体/電極界面近傍での金属イオンの垂直方向の動きの解析;②高表面積電極での溶質金属イオンの濃縮と拡散過程;③溶質金属イオンが与えるイオン液体界面電気二重層の構造化と応答の直接評価 ①については,spin coating法とpulse deposition法を組み合わせて上記金属イオンの濃度が異なる層を重ね合わせたtailored IL薄膜を金基板上に作製し,薄膜内での垂直熱拡散の挙動を角度分解XPSで解析した。基板近傍でのILの構造化に伴い,基板近傍での金属イオンの拡散が極めて抑制されることが分かった。②については,1.5 nmの細孔をもつメソポーラスシリカの中で,イオン液体に溶解した金属イオンが濃縮される現象を見出し,細孔内の構造と細孔壁との相互作用をXPS, 電子顕微鏡,IR測定等により解析を行った。さらに,それら解析結果を説明できる機構モデルの構築を行った。③については,MD計算により,電荷をもたせたグラファイト基板近傍での金属イオンの拡散能の変化を確認した。グラファイト電極電位が電荷をもたないpzcから外れると電極は正または負の余剰電荷をもち,それによってイオン液体の構成分子の構造化が進み,それが溶質金属イオンの有無により変わること,拡散が遅くなることが示された。これを次年度に実験的にも検証する。 以上に関わる成果として,学術論文4件,総説2件,国際会議での招待講演を複数含む発表32件で報告をしており,概して順調な進捗であると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
H29年度までの実績をもとに,H30年度は,申請者らが開発したEC-XPS,電気化学周波数変調AFM(EC-FM-AFM)および角度分解XPS,分子動力学(MD)計算を用いて以下の3項目の研究を主に実施する。 ① 電気化学XPSによる金属イオン時空間分布測定による拡散機構の解明 ② 高表面積電極での溶質イオンの濃縮と高速拡散機構の解明 ③ イオン液体中での溶質金属イオン動的挙動の計算科学的解析 特に①は,昨年度までのtailored IL薄膜とEC-XPSを用いたbulk領域の時空間分布測定を併せもつような新規解析法を進めている。これにより,bulk領域と電極界面領域の解析が格段に進むことが期待できる。
|