研究課題/領域番号 |
16H04097
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
小堀 康博 神戸大学, 分子フォトサイエンス研究センター, 教授 (00282038)
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研究分担者 |
岩田 達也 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (20569917)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 生物物理 / シグナル伝達 / 進化 / 光エネルギー変換 / 電子スピン共鳴法 |
研究実績の概要 |
本研究では、部位特異的変異導入法と多周波時間分解電子スピン共鳴法および、時間分解赤外分光法を組み合わせ、フラビン酵素の初期電子移動過程に伴う補酵素およびアミノ酸残基の立体的な位置と分子配向の変化を観測する。さらに各光電荷分離状態の電子的相互作用の値を特定し、長距離電荷分離に対しアミノ酸残基の水素結合や配位結合が電子伝達機能にどのように関わるのかを具体的に示すことにより、タンパク質反応の分子論的機能の詳細を明らかにする。 初年度は、アフリカツメガエル由来のクリプトクロム(Xenopus laevis CRY-DASH)天然型について、光照射によって得られる時間分解電子スピン共鳴スペクトルに対する温度効果を観測した。300 mM NaCl, 0.1 M Tris HCl, pH8.0, 30% (v/v) glycerolに溶解させたXenopus laevis CRY-DASHをFreeze-pump-thaw cycleによって冷却脱気しTREPR測定に用いた。測定温度を120 Kと273 Kとし、励起光源はナノ秒OPO laser (波長450 nm)を用いた。120 Kでは、磁場範囲の広い領域にE/A/E/Aのパターンを示すEPR信号が得られた。一方、三段階目までの電荷分離過程が報告されている273 Kの測定温度では、E/Aパターンを示す幅の狭い信号が得られ、既報のデータと一致した。以上より、低温領域で得られたスペクトルは、双極子間相互作用が高温の系よりも増大したスピン相関ラジカル対として解釈することができるため、三段階目である長距離電荷分離状態の前駆体である二段階目の近距離電荷分離による信号であると結論した。スピン相関ラジカル対モデルおよび電子スピン分極移動モデルによるスペクトル解析を行い、天然型試料に生成する近距離および長距離電荷分離状態の交換相互作用を特徴づけた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
天然型試料において、120 Kの低温条件では、二段階目の電荷分離状態のみが観測されたと結論したが、まだ確証がない。この検証のため変異体の計測が必要である。しかし、この近距離電荷分離状態に対するスペクトル解析によって、交換相互作用の値を約2mTと決定することができた。この値および立体配置を用い、高温領域で観測されたスペクトルについての解析が今後において有用となるためおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
新規のOPOレーザーシステムを平成28年度末に導入したため、今後は、さらに高精度な時間分解電子スピン共鳴計測が可能になった。偏光励起法を組あわせることにより、初期電荷分離状態(FAD- W400W377+W324)および、長距離電荷分離状態(FAD- W400W377W324+)の立体構造解析を進める。さらに、変異体試料W324Fの試料提供を研究分担者の岩田より受け、初期電荷分離構造に関する重要な知見も得る予定である。
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