研究課題/領域番号 |
16H04100
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
井村 考平 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (80342632)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 金属ナノ構造体 / コヒーレント制御 / 励起状態 / エネルギー伝搬 |
研究実績の概要 |
金属ナノ構造体に光励起される自由電子の共鳴モードは,電子と光場が時間的また空間的に結合した光強結合状態である。複数の光-電子結合モードを同時励起し,その重ね合わせ状態をコヒーレントに制御することで,光強結合状態を時間と空間の両軸で制御することが可能である。本申請では,金属ナノ構造体に誘起される光励起状態の時空間コヒーレント制御を実現し,光と熱の伝播制御法を構築することを目的とする。この目標を実現するために,本年度は(1)高精度時間分解近接場顕微時空間制御装置の構築とそれによる動的空間モードの可視化と(2)近接場光熱顕微分光手法の開発に取り組んだ。 まず(1)の課題では,制御可能な光励起状態のモデル系として二次元の金属ナノ構造体に励起されるプラズモンを利用した。光励起状態を時間と空間の両軸で制御するためには,励起光パルスにより複数のモードを同時(コヒーレント)励起する必要である。プラズモン場の時空間イメージングにより二次元の金属ナノ構造体がこの目的を達成するのに最適であることを明らかとするとともに,プラズモン場の緩和特性を詳細に解明することに成功した。また解析の結果,光励起状態を時間と空間の両軸で制御を実現したことを示唆する結果が得られた。(2)の課題では,金属ナノ構造体の光熱変換過程を光学顕微鏡により単一粒子レベルで研究した。その結果,金属ナノ構造体およびその周辺物質の温度変化にともなうスペクトル変化を測定できることを明らかにした。さらに,その空間分布を可視化する手法として,近接場光熱顕微分光手法の開発に着手し,ナノ構造近傍の温度分布に起因すると推定される特徴的な空間構造が存在することを示唆する結果を得た。現在,測定手法の高精度化を進めるとともに測定結果の理論解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の成否を分けるのは,顕微分光装置ならびに位相制御装置の安定性を向上するところにある。すでに光原および顕微鏡を安定化するシステムを導入し,現在安定性の評価を行っている。また,この装置を用いて,光励起状態の時空間コヒーレント制御に取り組んでいる。測定結果の解析を進める過程で,二次元金属ナノ構造に励起される空間モードに局在光励起の本質にも関わる特異な選択則が存在することが明らかとなっている。またその解析からは,局在場の電場と磁場の両方を可視化できる可能性があることも明らかとなっている。光励起状態の時空間コヒーレント制御を実現するには至っていないものの,以上のとおり当初の計画以外の研究成果も得られていることから,本研究は概ね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
本申請では,気相において成熟したコヒーレント制御技術を固体系に導入し,さらにこれに光励起状態の空間特性を融合させることで時空間コヒーレント制御を実現することを計画している。これまでにロッドおよびナノプレートにおいて,光励起状態の動的空間特性を可視化することに成功している。今後は,これを発展させて,まず単一粒子において光励起状態の時空間コヒーレント制御を実現する。次に,同様の動作原理を二次元配列系に拡張する。さらに,あらたに光熱変換や光局在を利用した光励起状態の長寿命化に取り組む。これにより,プラズモンの長寿命化法についての知見を蓄積しその方法論を時空間制御に活用する方針である。
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