研究課題/領域番号 |
16H04105
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
市川 淳士 筑波大学, 数理物質系, 教授 (70184611)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | フルオロアルケン / 多環式芳香族炭化水素 / 有機半導体 / Friedel-Crafts / チエノアセン / フッ素 / カルボカチオン / エネルギーギャップ |
研究実績の概要 |
申請者はまず、酸(ブレンステッド酸、ルイス酸)を用いないカルボカチオン生成法について検討を行った。その結果、(トリフルオロメチル)アルケンの分子内Friedel-Crafts型環化で得た1,1-ジフルオロアルケンにメタンスルホン酸存在下、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノンを作用させることで、アセン骨格を有する4環式化合物が合成できることを明らかにした。本反応系内では、ジフルオロアルケンの酸化によりカルボカチオンが生成している。 次に、ジフルオロアルケンのFriedel-Crafts型環化を用いるフッ素置換チエノアセン(F-チエノアセン)合成法について検討を行った。その結果、チオフェン環の隣接位にアリール基とジフルオロビニル基を有する環化前駆体に、触媒量の塩化パラジウムとビス(トリフルオロメタンスルホンイミド)銀(1/2)を三フッ化ホウ素-エーテル錯体の存在下で作用させると、期待した環化反応が円滑に進行し、末端にチオフェン環を有するアセンが収率良く得られることを見出した。 さらに、これまでに開発してきた反応で構築したF-PAHライブラリを用いてその物性を測定し、フッ素導入による効果を吟味した。その結果、これらF-PAHはフッ素置換基を一つないし二つ導入しただけにも関わらず、有機溶媒への溶解度が最大で25倍向上していることを明らかにした。また、紫外・可視吸光スペクトルならびにボルタンメトリーをもとにそのエネルギー準位を見積もったところ、フッ素導入により例外なくHOMOおよびLUMOエネルギー準位が低下していること、また、HOMO/LUMOエネルギーギャップも例外なく低下していることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度申請者は、従来から用いてきた酸による方法に加え、酸化剤によるカチオン生成法を開発することに成功した。カチオン生成は、本研究課題が目指すピンポイントフッ素置換PAHの系統的合成への鍵であり、合成のための方法論として新たな可能性を手に入れたことになる。 また、硫黄を含む化合物群であるフッ素置換したチエノアセンの合成へも展開した。チエノアセンは、PAHと並ぶ重要な有機半導体である。今年度の検討により、申請者らの手法により合成可能な化合物群が大きく広がった。 また、申請者だけが保有するピンポイントフッ素置換PAHライブラリを利用することで、系統的な物性評価も行った。これにより得られた知見は、申請者だけがもつものであり、今後の標的分子設定や反応設計に極めて重要な意味をもつものである。 以上のことから、本研究課題は順調に推移していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
(トリフルオロメチル)アルケンに密接に関連する化合物群である(トリフルオロメチル)シクロプロパンを取り上げ、これらからのカチオン生成について検討を行う。また、(トリフルオロメチル)アルケンのSN1'型反応を組み込んだ直線型PAH合成法を完成し、最終目標であるピンポイントフッ素置換PAHの系統的合成法を確立する。
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備考 |
筑波大学市川淳士研究室ウェブサイト http://www.chem.tsukuba.ac.jp/junji_lab/
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