研究実績の概要 |
ヘテロ芳香環は広く有機化合物中に存在し、それらの化合物の構造と機能の根幹を担う基本骨格である。もし頑丈で骨格変換が困難なヘテロ芳香環を起点とする自在な環骨格変換が実現すれば、生成物の多様性や合成工程数の削減などの観点から、魅力的かつ斬新な合成戦略となりうる。最終年は銅触媒を用いたベンゾフラン類の開環シリル化反応について重点的に研究を行った。 ベンゾフランに対し塩化銅触媒存在下、過剰量のカリウムt-ブトキシドとジシラン反応剤を作用させると、フラン骨格の開環を伴うシリル化反応が温和な条件下進行することを見いだした。本反応で用いるケイ素反応剤としては1,2-di-tert-butyl-1,1,2,2-tetramethyldisilaneが最適であり、他のジシランやシリルボランは有効ではなかった。溶媒が本反応に与える影響は極めて大きく、THFとピリジンを3:1の体積比で混合した共溶媒系が特に有効であった。本反応はジシランと銅塩から系中で生じたシリル銅種による付加-脱離型の機構で進行していると考えられ、DFT計算により想定反応機構が妥当であることも確認した。この新しい反応機構の発見は、芳香環リフォームの今後の展開に大変重要な知見を与えるものである。生成物のビニルシランは精製容易かつ安定でありながら、適切な活性化剤存在下では高い反応性を有しており、パラジウム触媒を用いたヨードアレーンとのクロスカップリングが高い収率で進行した。 本研究成果は、Angewandte Chemie誌に掲載済みである。なお、この反応で用いたジシラン反応剤は申請者が独自に開発したものであるが、その将来性に鑑み2019年より試薬会社が市販を開始している。 また、この研究を遂行中に、インドールの還元的開環、ジベンゾチオフェンからのN-アルキルカルバゾールの合成を達成し、芳香環リフォームの新展開と深化をはかれた。
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