平成30年度においては,5員環を含むことにより電子受容性が向上したCP-PAHの高効率合成ルートとして,分子間における酸化的C-Hカップリングが有用であることを明らかにした。従来のCP-PAHの合成ルートの多くは,Pd触媒クロスカップリングを用いる前駆体の合成が必要であるのに対して,本研究では,母体テトラセンに対する事前の官能基化を必要としない直接的な構造修飾により,5員環を介したπ拡張がワンポットで実現できることを見出した。具体的には,テトラセンと2-メチルチオフェンを酸化剤の存在下で反応させると,両者のクロスカップリングが進行するのみでなく,分子内環化も同時に進行し,チオフェン環が縮環したπ拡張テトラセン誘導体が得られた。テトラセンのHOMOレベルは2-メチルチオフェンと比較して十分に高いことから,酸化的クロスカップリングが進行したものと考えられる。この手法はペンタセンなどの,より高いHOMOレベルをもつアセン類の直接π拡張にも適用可能であると期待できる。 さらに,テトラセンに対する酸化的C-Hクロスカップリングは,5員環の形成のみでなく7員環形成を介したπ拡張にも有用であることを見出した。すなわち,5員環を1個含むテトラセン誘導体に対して,ビチオフェン誘導体を酸化剤の存在下で反応させると,上述の反応と同様に,酸化的C-Hクロスカップリングが進行して,7員環を含むCP-PAHがワンポットで生成することを見出した。得られた化合物は5員環と7員環を含み,7員環の部分で大きく捻じれた三次元構造をもつことを単結晶X構造解析により確認した。
|