研究課題/領域番号 |
16H04114
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研究機関 | 愛知工業大学 |
研究代表者 |
森田 靖 愛知工業大学, 工学部, 教授 (70230133)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 有機中性ラジカル / 縮合多環構造 / ヘテロ原子 / 巨大π電子系分子 / 有機ポリマー |
研究実績の概要 |
課題A:硫黄原子を導入した新規縮合多環型中性ラジカル分子について、当研究グループが確立したTOT骨格の効率的な合成手法を適用し、市販のチオフェン誘導体を出発物質とする合成ルートを検討した。目的骨格の一段階前まで到達したが、その反応条件の最適化および精製・単離については、目的物の難容性と過酷な反応条件による分解反応が懸念されたため、各段階の高収率化と合わせて次年度に持ち越すこととした。 課題B:巨大π電子系有機中性ラジカルについて、TOT骨格の酸素原子をπ電子系骨格に置き換えた誘導体を合成ターゲットとして種々の合成ルートを探索したが、反応中間体の反応性の制御が困難であり、基本骨格の構築を達成することができなかった。平成29年度は合成ターゲットから改めた巨大π電子系有機中性ラジカルの分子設計ならびに骨格形成にまで立ち返った合成ルートの策定を再度行い、その誘導体の合成を目指すこととした。 課題C:TOT骨格にクロスカップリング反応によりスチレン骨格を導入してモノマーを合成し、さらにそれをラジカル重合させることで、ポリスチレン鎖にTOTを結合させた誘導体に導いた。ゲルろ過カラムによる分子量測定から、平均でTOT骨格を8個有するオリゴマーになっていることが示唆された。この分子について電気化学測定を行い、その酸化還元特性に関する基礎的な知見を得た。また、オリゴマー中のTOT骨格を中性ラジカルに変換する反応検討も行い、安定な固体として目的物を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
課題Aについては、目的物である硫黄原子を導入した新規縮合多環型中性ラジカル分子の基本骨格の構築に到達することができなかった。目的物の難溶性や不安定性などの懸念事項はあるものの、これまでの有機中性ラジカルに関する我々の研究実績からその問題は解決可能であると考えている。 課題Bについては様々な合成ルートを模索したが、大きく広がったπ共役系に由来する反応の困難さのため、当初の合成ターゲットを断念し、分子設計を改めて別の巨大π電子系有機中性ラジカルの合成を検討することにした。
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今後の研究の推進方策 |
課題A:TOT骨格内部に硫黄原子を組み込んだ誘導体の合成を継続する。まずはアニオン体の塩として単離し、構造決定および各種分光スペクトル測定を行うことで、中性ラジカルとした際の電子状態解明に必要な基礎的データを収集する。これらの結果をもとに中性ラジカルの合成を行う。中性ラジカルの安定性や溶解性など、硫黄原子の導入による性質の変化を考慮しつつラジカル化の手法を検討する。ラジカル種については電子スピン共鳴測定を行い、硫黄原子の導入が電子スピン構造に与えた影響を明らかにする。また、単結晶試料の作製・結晶構造 解析を行い、固体中での自己集合構造を明らかにし、バルク状態での導電性や磁性といった様々な機能発現のための基礎的情報を収集する。 課題B:平成29年度は合成ターゲットから改めた巨大π電子系有機中性ラジカルの分子設計ならびに骨格形成にまで立ち返った合成ルートの策定を再度行い、その誘導体の合成を目指す。 課題C:平成28年度の合成を達成したTOT一次元ポリマー分子について、溶液あるいは固体状態での電気化学的特性から、強く束縛された集合状態においてTOTの酸化還元特性や電子スピン物性が受ける影響について明らかにする。また、TOT骨格の間隔を調整した新たなポリマー分子の設計・合成を行う。
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