研究課題/領域番号 |
16H04118
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
黒田 泰重 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (40116455)
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研究分担者 |
大久保 貴広 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (30385554)
砂月 幸成 岡山大学, 自然生命科学研究支援センター, 助教 (80362987)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ニッケル微粒子 / 超常磁性 / ゼオライト空間 / 一価ニッケルイオン創出 / X線微細構造解析 / 電子スピン共鳴法 / 紫外可視吸収分光法 / 赤外線吸収分光法 |
研究実績の概要 |
ゼオライトサブナノ空間内にイオン交換された金属イオンや担持された金属種には,通常の金属イオンや金属のそれらとは全く異なる新奇な電子状態が創出される場合が有り,我々は,それらをultra-ionとかultra-atomと呼称し,用語として提案している.例えば,驚くべきことに,ゼオライト中ではCu(I)イオンが安定化され,それは室温でN2やH2,更にXeとでさえ強い結合を形成することを見いだし,報告してきた.また,亜鉛イオン交換ゼオライト中ではZn(I)イオンや原子状Zn(0)が形成されること,それらは室温付近でメタンの活性化現象も引き起こすことを見いだしている.これらの現象には,ゼオライト骨格中に存在するAlの配置やゼオライト空間を構成する細孔の曲率が重要な因子となっていることを提案した.これらの研究基盤に基づいて,Ni(II)イオンやCo(III)イオンを含むゼオライト系を特異反応場として利用することによって,新奇な電子状態の創出をめざして研究を行っている.まず,ナノサイズのNi微粒子の調製を試みた.一般に,微粒子は高温でクラスター化するため大きなサイズの粒子となる可能性があるので,反応容器としてゼオライト空間を利用した.そして,種々の反応条件を検討した結果,最終的にナノサイズのNi微粒子の調製に成功した.その微粒子は超常磁性を示す新奇なニッケルクラスターであることを種々の分光法により明らかにした.さらに,その製造過程において,存在がほとんど知られていないNi(I)イオン種を創出できることがわかってきた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの成果により,ナノサイズの細孔を有するMFI型ゼオライト中にイオン交換されたニッケルイオンについてCO処理をおこなうことによって,一価ニッケル種が形成され,その種はCO分子と室温で強く相互作用することがわかった.その相互作用したCO種について,真空熱処理を行うとCOの脱離と共にNi(I)種の不均化反応が生じ,微粒子Ni(0)種とNi(II)種ができることが明らかになった.微粒子Ni(0)種形成過程の研究を行い,ナノサイズの超常磁性Ni(0)種の存在を明らかにした.さらに,上述の過程で生成されたNi(I)種の特異な性質を明らかにするために,不均一化反応が生じない条件を検討した.その結果,Ni(I)とCOとが相互作用した種について,室温でO2ガスに曝すことによって,吸着CO種をO2によって直接置換することを試みた.その結果,超酸化物種が形成することを明らかにした.この種はNi-O2種の (delta-delta*) 遷移に帰属できる吸収バンドを示し,しかも,その吸収に振動状態が重なる,いわゆる,振電遷移を示すことを見いだした.このスペクトルを解析することによって,形成された種はNi(II)-(eta2-peroxide)型の種である事を明らかにした.さらに,この種は,室温でさえ,COの酸化反応を引き起こすことも明らかにできた.これらの成果は,新たな解析法の提案と共に,反応系としても極めて興味深い重要な発見であると認識している.
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今後の研究の推進方策 |
これらの種の形成過程,形成された種の物性および特異反応場としての役割を以下の様な計画に基づいて解明し,新しい無機化学としてのゼオライト空間化学分野を確立・発展させるため以下の実験を行う. 1.調製したニッケルイオン交換ゼオライト試料の真空熱処理過程で,Ni-O-Ni種が形成されていることがわかってきた.橋かけしている酸素種の反応活性について,メタンの活性化に対する反応性をモデル反応として検討する.2.ゼオライト中に形成されたナノサイズのニッケル微粒子の触媒活性点としての役割を検討する.3. 一般に金属イオンによって活性化された酸素種は種々の興味深い反応性を示すことがわかってきたので,超酸化物種{Ni(II)-(eta2-superoxide)}を利用した反応を試みる.まず,モデル反応としてよく利用されるCOの酸化反応については既に検討中で有り,室温で酸化反応が生じ,CO2が形成することがわかってきた.この反応は燃料電池利用の際,原料の水素ガス中のCO除去の過程で利用できる可能性もある.そこで,この酸化反応のメカニズムの解明を行う.また,メタン活性化の反応についても,検討を行う予定である.4.Ni(eta2-superoxide)種はdelta-delta*遷移に由来する強い吸収バンドが出現する.光照射によりこの遷移を引き起こし,活性酸素種の励起状態を利用した光反応を検討する.その際,COの酸化反応を調べ,その後,メタンの活性化反応の検討も行う.更に,CO―CH4混合ガス系での反応も検討する.5.他の遷移金属元素として,Co系でも興味深い活性種が生じることがわかってきた.この系での,酸化反応の検討も行う. 以上のような系について,ゼオライト中での交換イオンに対する,新奇電子状態の創出(金属イオン系についての周期表の三次元化)の本質の解明に向けて研究を展開していきたい.
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