研究課題/領域番号 |
16H04120
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
砂田 祐輔 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (70403988)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 第一周期遷移金属 / 配位不飽和 / 高反応性錯体 / ケイ素配位子 / 触媒反応 |
研究実績の概要 |
単純アルカンやアレーン、窒素分子、などに代表される極めて不活性な分子を高効率的に捕捉・活性化・変換する反応の開発は、現代化学において最も困難、かつ重要な反応の一つである。本研究課題では、アニオン性配位子として機能する有機ケイ素配位子が、金属中心に対し極めて強く電子供与し、かつ配位的に不飽和な錯体種を安定化する、という性質に立脚し、有機ケイ素配位子を持つ高反応性金属錯体種の開発と、これらを利用した不活性分子・結合活性化・変換へと応用することを目的としている。特に、これまで研究が未開であるが、貴金属化合物等とくらべても、より高い反応性を示すことが明らかになりつつ有る第一周期金属に焦点を当て、これらを有する高反応性錯体の化学を開拓する。 本年度は、まず有機ケイ素配位子として、キレート型ケイ素配位子に注目し、これを有するマンガン・鉄錯体の構築法を開発した。これまでの研究実績のある1,2-bis(dimethylsilyl)benzene骨格をキレート型2座ケイ素配位子として用いることで、配位不飽和性を示すマンガン・鉄錯体の構築に成功した。さらに、二つの”H-Si”部位が異なる骨格で連結された各種キレート型ケイ素配位子を新たに開発し、これらを用いた錯体構築法についても確立した。これらにおいては、一部コバルト錯体合成への展開も可能であることを見出しており、各種第一周期金属錯体を広く構築できる普遍性の高い合成方法であることが示された。また、鉄錯体を用いた触媒反応への応用として、鉄触媒によるアルケンの水素化反応への展開も行った。通常鉄は2電子移動型反応を好まないため、貴金属化合物と異なり金属中心による水素分子の酸化的付加型活性化は不利であるが、キレート型ケイ素配位子を持つ鉄錯体においては、金属中心ではなく、”Fe-Si”部位で水素分子を活性化しうることを見出し、新概念に基づく結合活性化を基軸とする触媒反応の開発に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究によって、まずベンゼンユニットを配位子骨格として有する1,2-bis(dimethylsilyl)benzeneをキレート型ケイ素配位子として用いることで、マンガン・鉄錯体の開発に成功し、その中の一部は高い配位不飽和性を示すことを見出した。さらにベンゼンユニットに限らず、その他の有機部位を配位子骨格とする様々なキレート型ケイ素配位子の設計・合成に成功し、それらを活用した各種第1周期遷移金属錯体の合成法を確立した。さらに合成した錯体を用い、アルケンの触媒的水素化において、触媒機能を迅速に評価できることを明らかにした。合成した錯体は、各種NMRスペクトル、IRスペクトル、単結晶X線構造解析により解析を行ったが、特に配位不飽和性を示す錯体については、CO付加体を合成し、NMRスペクトルにおける化学シフト、IRスペクトルによるCO伸縮振動を精査することで、電子状態を評価でき、触媒活性との相関についての知見を得ることができることを見出した。また、アルケンの水素化においては、金属中心による酸化的付加を経由せず、金属―ケイ素結合を水素分子活性化のための反応場とすることで、従来では困難であるとされていた鉄触媒による反応開発にも成功した。本概念は、触媒的水素化のみならず、不活性結合を含む様々な結合活性化にも展開可能な普遍性の高いものであり、今後の研究において、これを基盤とした結合活性化・変換への展開が拓けると見込まれる。 このように本年度は、ケイ素配位子の開発と、それらを持つ第一周期金属錯体の合成・解析法の確立、ならびにそれらを用いた触媒反応へ展開に成功しており、以上を勘案すると本研究は、概ね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの成果を受けて、今後はまずは合成した一連のキレート型ケイ素配位子を持つ第一周期金属錯体を開発し、それらの基礎的な構造・電子状態の解析に加え、配位不飽和性の検証を行う。さらに、アルケンの水素化を反応プローブとする触媒機能の評価を迅速に行い、より高反応性・高機能性を持つ錯体設計指針を確立する。特に、ケイ素上に適切な電子的・立体的環境を有する配位子の開発と錯体合成への展開を行う。得られた一連の錯体を用いて、現在までに予備的な知見のある、アレーンのC-H結合活性化・変換に代表されるより高難度な分子変換法の開発に取り組む。この際、これまでの実績のある、C-H結合アルキル化・アルケニル化を中心に検討する。 併せて、特にケイ素配位子上の立体環境を適切に制御することで、より配位的に不飽和な錯体の開発と、窒素分子などのより捕捉・活性化が困難な基質の変換に向けた検討を行う。この実現には、配位不飽和性の向上に加え、金属上の電子密度の向上が必要であると見込まれる。そのため、得られた錯体の電気化学的特性の評価と、それに基づく化学的還元により、電子豊富な錯体種の開発を行い、窒素分子等の不活性分子の捕捉・活性化を可能にする錯体合成指針の確立を目指す。本研究でも、第一周期金属錯体全般を対象に幅広い研究を実施するが、特に多電子還元がより有利な鉄やコバルト錯体の開発を重点的に行い、極めて不活性な分子でさえも捕捉・活性化可能な錯体の設計指針を確立することを目指す。
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