従来の触媒的物質合成においては、パラジウムや白金に代表される貴金属化合物が触媒として用いられてきた。近年、資源の枯渇の問題などから、鉄に代表される第一周期金属の活用が注目を集めているが、一般的な第一遷移金属化合物は、貴金属化合物と比較して各種触媒反応に対して低い活性しか示さないという課題が残されている。有機ケイ素化合物を金属上に配位子として導入すると、ケイ素の示す強いσ電子供与性や高いトランス影響のため、配位不飽和でかつ電子豊富な金属中心を有し高反応性を示す錯体の構築が可能となる。そこで本研究では、第一周期金属に対し複数の有機ケイ素配位子を導入することで、高度に電子豊富かつ配位不飽和な錯体種の構築法の確立と、これらを触媒として活用した物質合成法の開発を目的とした研究を行った。 本研究では、複数の”H-Si”結合を持つ有機ケイ素化合物を用い、低原子価金属錯体における金属中心への”H-Si”部位の連続的な酸化的付加を経由した錯体構築法、ならびにケイ素アニオンを用い、入手容易な金属塩との反応からソルトメタセシスを経由した錯体合成法、の2種の合成法を確立した。前者の手法を用いることで、特に鉄やニッケルを中心金属として有する一連の触媒が可能となることを見出した。一方、後者の手法は多様な第一周期金属に適用可能であることを明らかにした。また後者の手法は、ケイ素と同様に14族元素であるゲルマニウム化合物を配位子として用いた錯体合成へも展開可能である。得られた一連の錯体は、ピリジン等の2電子供与型配位子と速やかに反応し、ピリジン付加体を定量的に与える事から、いずれも高い配位不飽和性を示すことを確認した。さらにこれらを触媒として用いた展開を行い、鉄―ケイ素もしくは鉄―ゲルマニウム錯体が、アンモニアボランからの温和な条件下での脱水素化反応に対し高い触媒機能を示すことを明らかにした。
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