研究課題/領域番号 |
16H04121
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
高尾 昭子 (稲垣昭子) 首都大学東京, 理工学研究科, 准教授 (00345357)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 光触媒 / パラジウム / 重合反応 / 銅I価錯体 |
研究実績の概要 |
銅は資源として豊富に存在し、安価な金属であるため、昨年度は光増感性ユニットとして銅I価錯体を用いた触媒合成を試みた。銅ユニットは、励起状態におけるJahn-Teller歪みに起因する熱失活によってその光増感効果が低下してしまうため、銅周りを立体的に混み合わせ、励起状態における構造変化を抑制する必要がある。このために合成条件を工夫し、まず架橋配位子を配位させたパラジウム錯体を合成した後に銅錯体前駆体と反応させることにより、目的の立体構造を持つ新規な銅―パラジウム二核錯体の選択的合成に成功し、その構造と光物性を明らかにすることができた。わずか3ステップで目的の化合物を良好な収率で単離することができた。 合成した銅ーパラジウム錯体は、狙い通り、光増感効果を示し、スチレン類の重合反応に対する鋭敏な光応答性を示した。イリジウムの系と同様に、光照射下においてスチレン類に対して良好な重合活性を示し、さらに、これまでの系では活性を示さなかったアルキル置換基を有するオレフィン類に対しても重合活性を示すことが示唆され、より広範なオレフィン類の単独重合と共重合が可能となるものと考えている。しかしながら、銅錯体は置換基の電子的・立体的影響が光物性にきわめて大きな影響を与えるため、わずかに置換基を変えるだけで劇的な物性変化をもたらしてしまう。そのため、触媒活性に対する置換基の効果が明らかではなく、今年度は反応活性に対する系統的な調査を進め、より高活性な触媒合成を目指す。 銅上に2,9-ジフェニルフェナントロリン配位子を有し、架橋配位子に4,4'-ジメチルビピリミジンを有する銅ーパラジウム二核錯体の結晶をニトロメタン溶液から単離し、その分子構造を明らかにした。予想どおり、銅中心へ張り出した二つのフェニル基、メチル基がそれぞれ銅まわりを混み合わせ、光増感効果を保持させていることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究テーマは、光エネルギーを利用し、反応活性な有機金属種の励起状態を光で制御することによって、熱反応で実現し得ないような触媒的有機分子変換反応を目指している。中でも、特に重合反応に着目し、光によるポリマー合成の緻密な制御を目指すものである。 研究実績概要に示した通り、今年度はこれまで用いていたイリジウムシクロメタレート型の光増感性ユニットから、銅I価錯体へ変更したパラジウム錯体の合成を試みた。銅は、資源として豊富に存在し、安価であるため、レアメタルから銅への代替は非常に魅力的である。しかしながら銅錯体は、配位子の解離平衡、四座配位であるための動的挙動が、他のルテニウム、イリジウム錯体よりも顕著であるためにその導入が非常に難しい。しかしながら、いくつかの合成ルートを検討し、銅周りをよりrigid にするためのルートを開発することによって、光物性を保持した銅ーパラジウム錯体の合成に成功した。この錯体はわずか3ステップで良好な収率で単離、合成することが可能である。非配位性溶媒であるニトロメタン中から結晶化させることによって、良好な単結晶を得、そのX線構造解析データによって分子構造の詳細を明らかにした。その結果狙い通りフェナントロリン2,9-位のフェニル基によって銅周りが立体的に混み合った錯体であることを確認した。 上述の通り単離した銅ーパラジウム二核錯体を用い、光照射下での重合反応を試みたところ、光照射下での顕著な促進効果が観測され、パラメチルスチレンの単独重合が進行し、対応するポリスチレンが得られた。光源の ON/OFF に応じて重合反応自体も進行と停止が起こり、光による反応のスイッチングが起こることを確認した。さらに、この錯体の反応は、ラジカルトラップ剤共存下でも進行することより、光照射により生成した微量のラジカル種が活性種ではないことも確認できた。以上の結果より判断した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の成果を踏まえ、引き続き、銅―パラジウム錯体の合成と反応性を調査する。特に銅上の配位子の触媒活性に対する置換基効果を系統的に調査するために、1,10-フェナントロリン配位子および2,2'-ビピリミジンの置換基を、1) 触媒の吸光係数、2)銅周りの立体的混み具合、3)触媒の励起寿命、および4)銅、パラジウムへの電子的影響に着目し、これらの因子と触媒活性に対する相関を明らかにする。このためには、種々の置換パターンを有する銅―パラジウム2核錯体を合成し、光物性データを収集する。 一方で、重合反応については、上述の銅―パラジウム二核錯体が鋭敏な光応答性と、比較的高いスチレン重合活性を示すことが明らかとなった。引き続き、溶媒効果、濃度効果等を精査し、最適な触媒反応条件を決定する。現在のところ、モデル反応としてスチレン重合を試みているものの、速やかにポリマーを生成するために、反応溶液がすぐ懸濁してしまい、その後の光の透過が著しく低下することが問題となっている。光の透過の低下は反応の低下に直結しており、基質転化率が上がるにつれて徐々に反応速度が低下し、最終的には反応が頭打ちとなる。従って、反応全般を通じて均一な光照射条件を確保するための反応条件を決定する。 昨年度は銅―パラジウム錯体を中心に進めたが、もともと高い反応性を示すことが明らかとなっているイリジウム―パラジウム二核錯体を用い、より多様な光照射パターンによってどのような共重合体を合成できるか調査する。スチレン―ビニルエーテルを中心に、より基質適用範囲を拡大し、重合パターンを増やすことによって、この反応系の有用性をアピールする。
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