研究課題/領域番号 |
16H04123
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
張 浩徹 中央大学, 理工学部, 教授 (60335198)
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研究分担者 |
松本 剛 中央大学, 理工学部, 助教 (40564109)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 光反応 / 水素 / ハイドライド / 鉄錯体 / マンガン錯体 / プロトン共役電子移動 / アルコール脱水素 / レドックス活性錯体 |
研究実績の概要 |
本研究では、含パイ系アミンを配位子にもつ非貴金属錯体(MπA)及びその類似体自身を新規エネルギーキャリアとして活用すべく、まず室温駆動型MπAハイドライドの開発を目的とし研究を展開した。平成28年度は、Feとオルトフェニレンジアミン(opda)からなる[Fe(opda)3]2+にBuSHを水素ラジカルトラップ剤として共存させることで、ジスルフィド及びその光分解生成物の検出に成功した。このことは、鉄錯体への光照射により水素ラジカルが発生することを示し、本系の機構解明に向け重要な知見を得ることができた。更に、d6系のFe錯体に対し、d5系であるMn錯体の合成に成功した。Mn錯体においては無置換opdaにおいては酸化的二量化が進行することを確認したため、4,5位へMe基を導入することで目的とするトリスbqdi錯体を合成し、その構造及び基礎物性を解明した。更に、[M(bqdi)3]2+錯体へのPd系水素化触媒を用いた直接水素化を示唆する結果を得た。またd電子数の軽減により、酸化型錯体の還元電位が正側にシフトすることも確認でき、可逆的水素吸蔵プロセスの最適化に向けた研究を展開できた。 続いて、Bis-o-aminophenolato (apH) Fe(II)錯体が示す、室温でのMeOHからの光脱水素化反応を踏まえ、配位子への置換基導入とMn(II)を用いた触媒活性能を明らかにした。その結果、電子供与性置換基及びMn(II)への置換により脱水素効率が向上することを見出した。このことは、励起状態において水素ラジカルの放出に伴う配位子の酸化過程に配位子上の置換基及び金属が影響していることを初めて確認した結果であり、今後更なる量子収率及び触媒活性の向上に向けて有用な知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、MπA及びその類似体自身を新規エネルギーキャリアとして活用すべく、課題1:室温駆動型MπAハイドライドの開発を進めている。現在はopdaを用いているが、究極的対象としてethylenediamine (en)ーethenediamine (eda)ーethanediimine (edi)を実現した場合、MCH(6.2 wtH2%)に匹敵する5.9 wtH2%の水素貯蔵率を室温で達成しうる。その実現のためには、(1)Fe/opda系の光水素発生機構解明、②M/opda系における高効率な可逆的水素吸脱着、及び③[M(en)3/(edi)3]n+型ハイドライドの開発が必要である。この観点から、昨年度得た成果は目的を達成するための重要な知見を複数得ることに成功しており、研究が計画にそっておおむね順調に進んでいるといえる。 また、課題2:ROH等の既存ハイドライドの室温光脱水素触媒の開発においても、Fe錯体よりも量子収率の高い系を発見することができ、本系を更に高活性化しうる物理化学的因子を見出すことができたことは、計画的研究の遂行に向け重要であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
課題1:室温駆動型MπAハイドライドの開発 (1)opda系における光水素発生機構の解明と最適化 平成28年度にBuSHを水素ラジカルトラップ剤として共存させることで、ジスルフィド及びその光分解生成物の検出に成功した。本年度は、その精密な定量化を行うと同時に、発生した水素ラジカルを水素分子へと効果的に変換する物理化学因子を探索し、機構解明に基づいた系の最適化をはかる。(2)opda系における可逆的水素吸蔵プロセスの開発 平成28年度には、鉄錯体及びd5系であるMn錯体の合成に成功したのに加え、[M(bqdi)3]2+錯体へのPd系水素化触媒を用いた直接水素化を示唆する結果を得た。本年度は更にd4, d3電子系へと系を拡張し、可逆的水素吸蔵プロセスの最適化に向けた研究を展開する。また、水素脱離型MπAを塩基と相互作用させイミンプロトンの脱離を誘発し、それに伴う水素分子への求核攻撃による水素分子の活性化を試みる。最後に、本系がイオン性である特徴を生かしたヒドリドドナー性アニオンによる水素分子の活性化を試みる。 課題2:MπA及びその類似体による既存ハイドライドの室温光脱水素触媒の開発 昨年度は、配位子への置換基導入とMn(II)を用いた触媒活性能を明らかにした。その結果、電子供与生置換基及びMn(II)への置換により脱水素効率が向上することを見出した。本年度は、その機構を明らかにすると共に、Mn(II)以外の非貴金属(Co,Cr等)を用いた研究を展開する。本研究では、代表である張が立案及び総括を担当し、研究分担者である松本は主に配位子及び錯体材料の合成研究を担当する。また大学院生である小池拓司(M2)、内城大貴(M2)、及び4年生(3名)が課題1,2の検討課題を担当する。
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