風力や太陽光など,安定供給に難のある再生可能エネルギーを有効に利用するため,電気化学エネルギーを化学エネルギーに変換する多電子酸化還元触媒の開発が求められている。本研究では,生体酵素の活性中心をヒントに,(1)多電子プール能,(2)フレキシブル骨格,(3)配位不飽和サイト,という3つの特徴を併せ持つクラスター錯体を研究開発の中心に据え,触媒開発のための基礎研究を推進した。本年度も,昨年度までに引き続き,種々の新規クラスター錯体の合成ならびに触媒機能評価を行った。代表的な成果として,5つの鉄イオンを有するクラスター錯体に対し,配位子部位にメチル基もしくはブロモ基を導入した新規鉄五核クラスター錯体を導入し,置換基導入が電気化学的性質ならびに酸素発生触媒機能に対してどのような影響を及ぼすかについて検討を行った。新規クラスター錯体の同定は,単結晶X線構造解析,元素分析,ESI-TOF-MSにより行った。電気化学測定の結果から,電子供与性のメチル基を導入した場合には鉄中心の酸化還元電位が低電位側にシフトし,電子求引性のブロモ基を導入した場合には高電位側にシフトすることがわかった。次いで,酸素発生反応に対する触媒機能を評価したところ,電子供与性のメチル基ならびに電子求引性のブロモ基のどちらを導入した場合においても,酸素発生過電圧が無置換体に比べて低電位シフトすることが分かった。分光電気化学測定により電子移動機構の詳細について調査したところ,メチル基を導入した場合は無置換体と同様の機構で電子移動反応が進行していることが分かった。一方,ブロモ基を導入した場合では,全く異なった電子移動機構で反応が進んでいることが判明した。以上より,電子移動機構と触媒機能との間における興味深い相関が見出された。
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