本申請は、ターゲット分子として、ヘリセンおよびの類縁体をターゲットとし、その光励起三重項状態のキラリティを時間分解分光法を用いて明らかとするとともに、その結果の解釈を行うものであった。また、このテーマを実現するための、時間分解円二色測定技術の改良・発展を目指した。 現在の時間分解CD測定システムは、ナノ秒フラッシュホトリシス法を基盤技術とし、そのプローブ光を楕円偏光とし、キラルサンプル透過後の楕円率変化をレーザーに同期して検出する手法をとっている。光検出器として用いているイメージインテンシファイアとフォトダイオードアレイを更新することにより、光励起三重項状態のキラリティ検出に必要十分な感度を有する機器に改良することが出来た。 研究計画当初、ベンゼン環が6つらせん状に縮環した[6]ヘリセンは、三重項生成量子収率が0.8と比較的高く、励起三重項分子のキラリティ検出を目指すうえでの試金石的化合物であると判断されていた。そこで、[6]ヘリセンをターゲットとした、時間分解円二色性測定を行い、溶液状態のヘリセンの励起三重項状態の円二色スペクトルを測定した。ヘリセンは、660 nm に励起三重項状態における光吸収帯を示すが、同じ波長領域に右らせん、左らせんで異なる符号の円二色性スペクトルが現れることを明らかとした。同様に、ベンゼン環が9つ縮環した[9]ヘリセンにおいても、励起三重項状態における円二色スペクトル測定に成功した。 キラルなリンカーで接続したキラルなナフタレンジイミド2量体の励起三重項状態の円二色スペクトル測定を試みた。近赤外領域にナフタレンジイミド間の電荷共鳴吸収帯において、円二色性が明確に観測された。この結果は、定性的には分子面間方向の電荷共鳴吸収に基づく遷移双極子モーメントと、それに平行な磁気遷移双極子モーメントの相互作用として理解された。
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