研究課題/領域番号 |
16H04131
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉村 一良 京都大学, 理学研究科, 教授 (70191640)
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研究分担者 |
植田 浩明 京都大学, 理学研究科, 准教授 (10373276)
道岡 千城 京都大学, 理学研究科, 助教 (70378595)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 遍歴電子物性 / 磁性 / 超伝導 / フラストレーション効果 / 電子・電気材料 / 核磁気共鳴 |
研究実績の概要 |
新規な遍歴電子物性を示す可能性を有する新規の低次元遍歴電子遷移金属物質群を探索・合成し、その電子物性、特に磁性や超伝導についてのマクロ及びミクロの両面から明らかにするため,本年度は層状AFe2Se2・BCo2Se2・BCo2(P-As)2 系に加え、さらに新たな二次元遍歴電子系化合物として、RCo9Si4(Rは希土類元素)に注目し、その中でもLaCo9Si4とYCo9Si4に的を絞り研究を行った。その結果、LaCo9Si4では遍歴電子強磁性発現寸前(量子臨界点近傍)の交換増強されたパウリ常磁性体であり、YCo9Si4ではキュリー温度TC=20Kの遍歴電子強磁性体であることが明らかになった。これらに対するマクロ物性測定の結果、磁化Mの磁場H依存系を系統的に測定し、LaCo9Si4では、低温で遍歴電子メタ磁性転移が臨界磁場9T辺りで観測された。また、YCo9Si4では、これまでの研究成果と同様、TC近傍では、アロット・プロットではなく、Mの4乗がH/Mに対して直線的になり、最近のスピン揺らぎ理論に従うことが明らかになった。この関係から、スピン揺らぎの波数ベクトルに依存した幅に対応する温度スケールTAをスピン揺らぎ理論を通して求めることができた(TA=17200K)。さらに核磁気共鳴実験により、核スピン-格子緩和率1/T1と磁化率とのスケーリングから、スピン揺らぎスペクトルのエネルギー幅に対応する温度スケールT0が求まった(T0=1460K: LaCo9Si4、T0=761K: YCo9Si4)。これらを用い、二次元遍歴強磁性体に対するスピン揺らぎ理論でつじつまの合う解析ができ、実験結果を上手く再現することができた。さらに強結合超伝導体A3B4Sn13(A=Ca, Sr, La; B=Co, Rh, Ir)において、構造相転移の量子臨界点と超伝導転移温度の関係が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、研究計画当初の予定になかった二次元遍歴磁性物質系RCo9Si4(Rは希土類元素)が新たに見つかり、その中でも強磁性発現寸前の交換増強パウリ常磁性体LaCo9Si4とTC=20Kの弱い遍歴電子強磁性体YCo9Si4について、本研究で確立したハイパワーパルス核磁気共鳴装置を用いてスピン揺らぎの観点から解析する事ができ、また、強結合超伝導体系についても、構造相転移の量子臨界点と超伝導転移温度の相関を明らかにすることができ、その意味で計画以上の成果を上げることができた。核磁気共鳴装置が上手く機能し、スピン揺らぎ理論との比較に絶えうる解析が出来たことは大きい。ただし、本来研究する予定であった三角格子クラスター系化合物やパイロクロア系、スピネル系と言ったフラストレート系の化合物に関する研究はあまり進展させることができず、来年度の課題である。総合として概ね順調と評価できると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
層状Fe(Te-Se)系・AFe2Se2・BCo2Se2・BCo2(P-As)2 系に加え、さらに新たな低次元遍歴電子系化合物RCo9Si4(Rは希土類元素)や強結合超伝導体の系であるA3B4Sn13(A=Ca, Sr, La; B=Co, Rh, Ir)、さらに三角格子クラスター系、パイロクロア酸化物系、スピネル系のフラストレート系遍歴化合物、さらには本年度の研究で号税・物性が系統的に明らかになりつつある近藤半導体から遍歴電子磁性系に遷移する、Fe(Ga-Ge)3系や(Fe-Co)Si系などに関してもさらに物質探索・良質単結晶合成を行い、系統的に遍歴電子系研究を進める。これらについて、マクロな物性測定のみならず、核磁気共鳴を中心としたミクロかつ動的な測定手段による実験を駆使することにより、系統的に二次元遍歴電子系についてのスピン揺らぎ理論で解析し、実験と理論を比較検討することによって、本研究をまとめる。それによって、低次元遍歴電子系について、新たな統一的な描像が得られ、新たな理論体系構築にも繋がる成果が得られると期待される。
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