従来の光線力学治療で用いられる光増感剤は一つの分子からなるため、光を吸収する機能とその光エネルギーを溶存酸素に移動し活性酸素を発生させる機能を兼ね備えていなければならない。そこで、吸収波長の領域を変化させるためには新たに分子設計を行い、しかも合成を行う必要があり、その際エネルギー移動の効率が減少する可能性がある。我々は、これまでに極性基を持つC60誘導体と光アンテナ分子となるカルボシアニン系の色素をリポソーム内に共存させた二元系の作製に成功した。このとき、光アンテナ分子を選択することで、光を吸収できる波長領域を合成操作を行うことなく簡便に変更できることに気付いた。光アンテナ分子として、644 nm、549 nm、484 nm にそれぞれ吸収極大を持つDiD、DiI、あるいはDiOをC60誘導体と共存させた二元系リポソームを三種類作製した。これらを用いて可視光領域の光照射下における大腸菌に対する抗菌活性を測定した。その結果、DiO < DiD < DiI の順でそれぞれの二元系の抗菌活性が高いことがわかり、これら二元系リポソーム全てがC60誘導体のみをリポソームに導入した一元系に比べ圧倒的に高い活性を有した。さらに、全波長領域を吸収できるように三種類の二元系リポソームを混合して抗菌活性を測定した。C60誘導体の濃度を揃えて検討した結果、三種類混合した二元系リポソームの方がDiI-C60誘導体の二元系リポソームに比べ高い抗菌活性をもつことが示された。今回、がん治療薬として開発した二元系が可視光によって活性化される抗菌効果をもつことが明らかとなった。
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