研究課題
生体膜ラフト等のソフト界面におけるドメイン形態や形成メカニズムは、ドメイン界線に生じる線張力が決定的な影響を与える。本研究では微小ドメインの形成原理や分散構造の安定性を二次元ミクロエマルション形成としてとらえ、吸着膜やリポソームを対象に線張力の計測基盤を構築し、界線吸着の観点からドメイン形態やドメイン分散構造形成のメカニズの解明を目指している。今年度の研究実績は以下の様にまとめられる。(1)吸着膜系:油/水界面におけるフルオロカーボンアルコール(F8H2OH)吸着膜系に対して界面張力およびX線反射率測定を行った。ヘキサン/水界面においてF8H2OHは膨張膜-凝縮膜相転移を示し、膨張膜では凝縮膜ドメインの形成を確認した。また、油をドデカンやヘキサデカンに変えると、ドメイン被覆率が減少し、ドメイン界線に働く線張力の増大がドメイン形成を抑制することも見出した。さらにF8H2OHとハイブリッドアルコール(F6H6OH)との混合系吸着膜では、F8H2OHドメイン被覆率の上昇とサイズの減少が観測され、F6H6OHのドメインの界線への吸着(界線吸着)が示唆された。(2)リポソーム系:線張力が低下する臨界状態近傍の相分離リポソームの作成および解析を行った。先ず、脂質フィルムの水和過程の実験条件を検討し、効率的にリポソームが作成出来る条件出しを行った。そして、相図上で脂質分子組成を調整し臨界状態を探索した。温度変化に伴うドメインゆらぎを顕微鏡で確認することが出来た。さらに、リポソーム膜面にコロイドを吸着させる条件を検討し、膜上でのコロイドの熱運動を顕微鏡でリアルタイム観察した。相分離膜ではコロイドは膜の無秩序相に局在し、臨界および一様膜ではコロイドが膜面を自由に熱運動する様子を動画撮影した。相分離、臨界、一様の各状態でのコロイドの動きの解析より、臨界状態近傍の膜における抗力を求めた。
2: おおむね順調に進展している
ブリュースター角顕微鏡(BAM)を用いた油/水界面吸着膜系のドメイン形態観察については、ほぼ目途がつきつつある。またリポソーム系のドメイン観察からは界線揺らぎより線張力を定量する手法が確立された。
(1)吸着膜系:膨張膜状態においてドメイン形成が確認されたF8H2OH吸着膜系に対してブリュースター角顕微鏡(BAM)による膜形態観察を行う。温度ジャンプ等の摂動により変形したドメイン形態の緩和過程を追跡し、緩和速度解析よりドメイン線張力を定量する。さらに、界線吸着が強く示唆されたF8H2OH-F6H6OH混合系吸着膜についてもBAM観察を行い、F6H6OH添加によるドメインサイズや線張力の変化から界線吸着の定量を試みる。さらに、二本鎖リン脂質の油/水界面吸着膜系に対する界面張力およびX線反射率測定を進め、ドメイン形成領域の探索とドメイン被覆率の決定を行う。(2)リポソーム系:臨界状態近傍の膜の物性解析を進める。膜面を蛍光顕微鏡で観察し、ドメイン界線のゆらぎをフーリエ級数でフィッティングする。そのモード数とフーリエ係数の解析より数pN 以下に低下した線張力を定量する。また前年に引き続き、膜に吸着させたコロイドの熱運動解析を行う。そして、レーザートラップを用いて、捕捉したコロイドを介して膜に力を加え、相分離ドメインの境界ゆらぎへの影響などを検討する。さらに、ドメインゆらぎ(2次元構造)と2分子膜の曲率形状(3次元構造)の関係性を調べる。ドメイン線張力と膜の曲率変形を支配する弾性係数が競合することにより、生体細胞様の膜ダイナミクスの発現が期待される。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件) 備考 (2件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
Progress in Surface Science
巻: 92 ページ: 1-39
org/10.1016/j.progsurf.2016.12.002