研究課題/領域番号 |
16H04135
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
瀧上 隆智 九州大学, 基幹教育院, 教授 (40271100)
|
研究分担者 |
濱田 勉 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 准教授 (40432140)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 線張力 / ドメイン形成 / 界線吸着 / 吸着単分子膜 / リポソーム |
研究実績の概要 |
生体膜ラフト等のソフト界面におけるドメイン形態や形成メカニズムは、ドメイン界線に生じる線張力が決定的な影響を与える。本研究では微小ドメインの形成原理や分散構造の安定性を二次元ミクロエマルション形成としてとらえ、吸着膜やリポソームを対象に線張力の計測基盤を構築し、界線吸着の観点からドメイン形態やドメイン分散構造形成のメカニズの解明を目指している。今年度の研究実績は以下の様にまとめられる。
(1)吸着膜系:フルオロカーボンアルコール(F10H2OH)吸着膜構造に及ぼす油分子の効果を界面張力、X線反射率、ブリュースター角顕微鏡(BAM)測定により検討した。ヘキサン/水界面では観測されなかったドメイン形成がヘキサン‐フルオロヘキサン混合油/水界面では誘起され、吸着分子と油との親和性の増大により線張力が低下し、数十ミクロンのドメイン形成が促進されることを確認した。また、一本鎖リン脂質(C14PC)とコレステロールとの混合吸着膜で確認されたドメイン形成は、分子の臨界充填パラメーター(cpp)を考慮した効果的な分子パッキングにより合理的に解釈できることを見出した。
(2)リポソーム系:レーザートラップを用いて捕捉したコロイド粒子を相分離リポソーム膜面上に配置し、粒子を振動させることで、相分離ドメインに力学的な揺動を加える実験系を構築した。そして、揺動による相分離ドメインの状態変化の観察を行ったが、光学顕微鏡下では変化を特定することは出来なかった。そこで次に、相分離ドメイン(2次元構造)と2分子膜の曲率形状(3次元構造)の関係性の調査に移行した。相分離リポソームに高浸透圧液を加えて膜変形を誘起させ、膜の余剰面積を増加させた。線張力値が低下した臨界状態近傍のリポソームでは、通常の線張力値を持つリポソ-ムとは異なる変形パターンが生じることが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
単分子膜系、二分子膜系共にドメイン形態観察および線張力の定量に関して、ほぼ予定通り実績を積み重ねてきている。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)吸着膜系:膨張膜状態においてドメイン形成が確認されたフルオロカーボンアルコール(F8H2OH、F10H2OH)吸着膜系に対してBAMによるドメインの形態観察および界面での電場印加等の摂動により変形させたドメインの形態緩和過程の追跡・解析を基に線張力の定量(緩和法)を行う。さらに、界線吸着が強く示唆されたF8H2OH-F6H6OH混合系およびC14PC-コレステロール混合系吸着膜についてもドメイン形態観察により線張力の定量を行い、線張力への接触エネルギーの効果を検討する。さらに親水基間に強い相互作用が期待されるF8H2OH-陽イオン界面活性剤系の膜組成定量およびドメイン形態観察を行い、ドメイン形態や線張力に及ぼす親水基間相互作用の効果についても検討を行う。
(2)リポソーム系:相分離ドメインと2分子膜の曲率形状の関係性について研究を進める。温度などの物理パラメータを変化させ線張力値を制御して、リポソームの変形パターンを調査する。そして、ドメイン線張力と膜の曲率変形を支配する弾性係数が競合することにより生じる新奇の膜ダイナミクスの機構を明らかにする。また、浸透圧やマイクロマニピュレーション法などにより、リポソーム膜の分子断面積を変化させ、相分離ドメインの状態変化を観察する。特に、ドメイン界線のゆらぎを蛍光顕微鏡で観察し、フーリエ級数でフィッティングすることで数pN 程度の線張力を定量する。そして、単分子膜系の相分離の知見を参考にして、2分子膜と単分子膜の物性の関係性を考察する。
|