研究課題
(1) 螺旋状[6]helicene分子を用いた物質開発:溶媒蒸発法や共昇華法を用いて、4種類のTCNQ誘導体との中性CT錯体を開発した。いずれの錯体もラセミ体であり、[6]heliceneの形状に起因して波状の交互積層を形成している。さらに、[6]helicene分子の形状が分子間相互作用(π-πや水素結合)に依存して大きく変化することを見出した。(2) 低対称benzo[ghi]perylene(以下、bper)分子を用いた物質開発:組成の異なる3種類のTCNQ錯体を開発した(bper:TCNQ = 1:1、2:1、3:1)。同じ組成を持つcoronene錯体と比較すると、結晶中のbper分子の面内分子回転は大きく抑制されていることを見出した。電解酸化法により、-2価Lindqvist型クラスター陰イオン(Mo6O19)を対成分とした陽イオンラジカル塩(bper)3Mo6O19の開発に成功した。この塩は(coronene)3Mo6O19と同形の分離積層構造を有するが、coronene錯体とは異なり電荷不均一を起こしている。coroneneからベンゼン環を1個除去したことにより、特定のbper分子におけるMo6O19陰イオンとのC-H...O水素結合が増強し、このCoulomb相互作用が電荷不均一を誘起したと考えている。Charge-rich状態のbper分子は二量体化を起こしており、これにより半導体的挙動の活性化エネルギー(0.18eV)は(coronene)3Mo6O19(0.04eV)の4倍以上の大きな値を示す。完全+1価bperから成る陽イオンラジカル塩(bper)(GaCl4)の開発にも成功した。
1: 当初の計画以上に進展している
coroneneや[6]heliceneなどの多環芳香族炭化水素分子を用いて10種類以上の新規CT錯体の開発に成功した。特に、bper陽イオンラジカル固体の開発に初めて成功し、coronene(D6h)からbper(C2v)に対称性を低下させることにより交互積層型中性CT錯体中のbper分子の面内回転が抑制され、分離積層を有する陽イオンラジカル塩のエネルギーギャップが増大する(電荷不均一が関与)ことを見出した。また、coronene錯体とは異なり、結晶構造データ(結合距離)からbper分子の価数を概算できることを明らかにした。さらに、CT錯体中の[6]helicene分子の形状を分子間相互作用により変化させられることを見出し、pyranthrene単体結晶の構造解析やCT錯体の開発に初めて成功したことを鑑みると、本研究課題は当初の計画以上に進展していると判断できる。
(1) coronene分子の価数制御:類似した形状・サイズを有する異価陰イオン(例えば、-1価GaCl4と-2価ZnCl4、-2価W6O19と-3価VW5O19)存在下でcoroneneの電解酸化を行い、陽イオンラジカル塩中のcoronene分子の連続的な価数制御(化学ドーピング)を行う。結晶構造データを用いたバンド計算を駆使しながら、coronene分子の価数と電子物性(伝導性、磁性)の相関について知見を得ると同時に、金属相や超伝導相の探索を行う。また、中性とイオン性の相境界に位置する交互積層型coronene錯体への圧力印加を行い、中性-イオン性転移の発現を目指す。(2) D6h対称hexa-peri-hexabenzocoronene(HBC)誘導体を用いた物質開発:現在までに10種類以上のcoronene陽イオンラジカル塩を開発しているが、金属状態の実現には至っていない。そこで、拡張したπ共役系を有するD6h対称分子ならびにそれらの陽イオンラジカル塩の合成を推進する。HBC分子は難溶性のため、t-Bu基を導入したHBC誘導体を合成し、電解酸化による陽イオンラジカル塩の合成を行う。結晶構造と電子物性の相関について知見を得ると同時に、金属相や超伝導相の探索を行う。(3) 低対称coronene誘導体の開発:前年度に引き続き、1,2-difluorocoroneneの合成を推進する。結晶中における面内回転挙動について検討し、冷却速度と誘電挙動の相関について知見を得る。(4) コロネンの励起状態の準位構造の解明:各種分光測定を用いてコロネン薄膜・錯体等およびコロネン等の高分子分散膜の光学的評価を行う。さらに、電子励起状態の性質を明らかにするために、ポンププローブ測定と電場変調分光測定を行う。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 2件、 査読あり 9件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (20件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件)
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