研究実績の概要 |
申請者らは、電界効果トランジスタの材料として有機Mott絶縁体を用いると、非常に高いデバイスのスイッチング性能が得られることを既に見いだしており、本課題ではその室温動作のために「単分子層のみ」を活性層としたトランジスタ開発を目指している。単分子層のみの有機Mott-FETを作製するには、(1)中性の伝導性分子を用いて単分子膜を作製する。(2)キャリアドープを行い、バンド充填率を0.5に調整する。という二段階のステップが必要である。昨年度は自己組織化単分子膜(SAM膜)を用いてキャリアドープを行い、実際にMott-FETとしての動作を確認したが、デバイスの移動度は期待したほど高いものではなかった。これはSAM膜中での分子配列に乱れが多く存在していたことが一因と考えられる。そこで本年度はより高い分子配向が期待できる液晶性単分子膜の作製を試みた。まず、TTF誘導体の単分子膜を作製し、アニーリング後に電界効果トランジスタとしての動作を計測したところ、SAM膜を用いたFETよりも高い移動度を示した。次にF4TCNQによる酸化を行ったところ、Mott-FETの特徴である両極性動作が室温において確認された。この時の移動度も、SAM膜を用いたものよりも高くなっていた。ドナー分子だけではなく、液晶性アクセプター分子を用いたMott-FETの開発にも取り組んだ。(TTF = tetrathiafulvalene, F4TCNQ = 2,3,5,6-Tetrafluoro-7,7,8,8-tetracyanoquinodimethane) 一方、活性な単分子層を創成する手法として、異種結晶の貼り合わせによる界面電子の蓄積も検討している。接合結晶を作製するための電気化学セルは、改良により液漏れ等の問題をほぼ解消することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TTFに対して4本の長鎖アルキル基を導入し、液晶性単分子膜の作製を試みた。スピンコートやアニーリングの条件、アルキル鎖長等の最適化を行い、移動度およそ2×10-3 cm2/Vsのp型単分子膜FETを得た。膜厚はプローブ顕微鏡(AFM)によって評価を行い、1分子層から3分子層程度まで制御が出来ている。この薄膜に対してF4TCNQの真空蒸着を行ったところ、FETが両極性動作を示すようになり、ON/OFF比が100程度、電界効果移動度がp領域、n領域ともに10-3 cm2/Vs程度の性能を得ることが出来た。これがMott-FETとしての動作によるものかどうかは、今後の検討課題である。また、高感度反射赤外分光法(IRAS)の測定を行い、中性電荷のF4TCNQが残存していることを明らかにした。加えて、アクセプター分子であるPTCDIに対しても長鎖アルキル基を導入し、スピンコートによる単分子膜作製を試みた。その結果、PTCDIのπ骨格部分が無置換の場合には単分子膜を得るための溶液濃度が不足しているが、π骨格部分に臭素を導入したPTCDI誘導体においては、スピンコート後に160℃でアニーリングを行うことにより、n型領域で10-3 cm2/Vs程度の移動度を示す膜が作製できた。しかしながら、この単分子膜にカリウムドーピングを行ったところ、膜が変質してしまい、電界効果測定は出来なかった。(PTCDI = 3,4,9,10-perylene tetracarboxylicdiimide) 一方、電気化学的結晶成長を用いた異種結晶の接合形成については、マイクロ流路型電気分解セルの改良を行い、流路形状や素材等の検討の結果、液漏れや結晶取りだし時の問題が概ね解決した。
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