研究課題/領域番号 |
16H04144
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
坂本 昌巳 千葉大学, 大学院工学研究科, 教授 (00178576)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 有機化学 / 不斉合成 / 結晶成長 / 結晶工学 / アミノ酸 / コングロメレート |
研究実績の概要 |
自然界の高度なホモキラリティー発現にも関連し,アキラルな前駆体から光学的に純粋な化合物を創製する手法の開発は,多くの研究領域で注力されている。我々はアキラルな基質を溶液中で反応させるだけで,高い光学純度の光学活性化合物が得られてくる現象を見出した。この不斉発現増幅現象は,アキラルな化合物の反応によりキラルな生成物が生じることと,さらに生成した不斉中心のラセミ化と優先晶出(動的優先晶出)が同時に系内で起こることで達成できることを解明した。この反応はアキラルな化合物から外的な不斉源を用いずに光学活性体を導く絶対不斉合成法である。期間内に,この手法の適用範囲を拡張し,可逆的付加反応によるアミノ酸の不斉合成,医薬品中間体となる複素環化合物にまで研究領域を展開するとともに,実用的な大量不斉合成まで達成することを目的として研究を行った。 ベンゾイルアクリル酸アミドとフェネチルアミン,触媒量のDBUをアルコール中で撹拌するとαアミノアミドが結晶として生成する。この共役付加反応は可逆的であり,結晶を数日間,懸濁撹拌し続けると,結晶の光学純度が徐々に上昇し,約2週間後には99%eeになる現象を見出した。溶媒や反応温度の効果,塩基やガラスビーズの効果を精査した。この成果はChem. Eur. J. (2016)に掲載された。 トランス体のベンゾイルアクリル酸アミドを光照射するとcis体へと異性化し,さらに分子内で環化しアミナール構造の複素環を生じる。この環化反応は可逆的であり,さらに生成物がコングロメレートを生成する場合には,光照射しながら溶媒を蒸発乾固させるだけで99.9%eeの生成物が得られることを見出した。この成果はChem. Eur. J. (2017)に掲載された。 その他,複数の系で新たは絶対不斉合成手法の開発に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上述の成果以外に,マレイン酸にピリジンを付加させることで,外的不斉源を用いずに光学活性なアスパラギン酸の誘導体であるスクシノピリジンが得られることを見出した。ラセミ化が,共役付加反応の逆反応と脱プロトン化により起こることを明らかにした。塩基の量を調整することで,現在のところ結晶の不斉収率は75%ee程度であるが,さらなる高い不斉反応の条件を精査している。 さらに,可逆反応として知られているDiels-Alder反応を本反応手法に適応することに成功した。フラン誘導体とマレイミドのDiels-Alder反応の可逆反応速度を触媒を用いることで制御し,外的不斉源を用いずに70%eeを超える不斉収率を達成した。この系においてもさらなる高い不斉収率を目指して条件を精査している。 これらの反応のキラリティーは最初に生成する結晶核のキラリティーが系全体のキラリティーを制御する場合や,キラリティーの揺らぎによるものであり,種結晶の添加以外の方法では,キラリティーを能動的に制御することが難しい。そこで,新たな試みとして,結晶核の生成をキラル渦光を用いて制御する手法を検討したところ興味深い成果を得た。 以上のように当初の予定を超える成果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
アキラルな基質を原料とし,キラル中心を形成する反応と動的結晶化を組み合わせることによる新しい絶対不斉合成手法を開発するテーマである。生命の起源に深く関わる手法であることから,アミノ酸やその関連化合物の絶対不斉合成を中心に検討する予定である。しかし,本手法は,外的不斉源を用いずに不斉反応を効率良く達成できることから化学工学的にも優れた手法である。従って医農薬品の中間体などの付加価値の高い化合物の不斉合成にも展開する予定である。 また,本手法の不斉制御の方法として,キラル渦光を用いた結晶核のキラリティーの制御にも合わせて注力する予定である。物理的な光のキラリティーを化学物質のキラリティーに変換することができれば,不斉化学分野のブレークスルーとなるだろう。
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