研究実績の概要 |
有機化合物の中でも光学活性化合物の役割は非常に大きく、これまでにも触媒的不斉反応による光学活性化合物合成の研究が行われてきたが、その大半が不斉炭素中心を持つ既存の骨格から成る化合物の合成に関するものである。本研究では、これまでにあまり研究が成されてこなかったケイ素上に不斉中心を持つ有機ケイ素化合物に着目し、将来の有機材料としての応用を念頭に、架橋ケイ素上に不斉部位を持つ様々な新規ケイ素架橋型π共役化合物の触媒的不斉合成法の開発を目指すとともに、合成化合物の物性評価を通じて機能の開拓に道筋をつけることを目標としている。本年度は、昨年度までの研究において見出したパラジウム触媒を用いた5,10-ジヒドロフェナザシリン合成における反応機構の詳細について、理論計算を用いて考察し、従来提唱されてきたものと異なる新しい経路による1,5-パラジウム転位を経て進行していることを明らかにした。この成果は、今後の新たな反応開発において有用な知見になるものと考えられる。また、ケイ素架橋型π共役化合物のうち、これまで効率的な合成法のなかった含ケイ素6員環化合物であるべンゾナフトシリンの触媒的合成についてさらなる検討を行い、ロジウム触媒による[2+2+2]付加環化反応を用いた高選択的な合成法の確立に成功し、適切な光学活性配位子を新たに開発し、これを利用することによって、比較的高いエナンチオ選択性で架橋ケイ素上の不斉中心を制御することも可能となった。
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