研究課題/領域番号 |
16H04146
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
村井 利昭 岐阜大学, 工学部, 教授 (70166239)
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研究分担者 |
芝原 文利 岐阜大学, 工学部, 准教授 (60362175)
宇田川 太郎 岐阜大学, 工学部, 助教 (70509356)
海老原 昌弘 岐阜大学, 工学部, 教授 (80201961)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ビナフチルセレノリン酸 / 不斉転写 / 光学活性配位子 |
研究実績の概要 |
有機リン化合物の多くは生理活性を示す。またリン原子上がキラルな場合、その活性はリン原子上の立体配置によって大きく異なることが明らかにされている。生理活性化合物以外にも鏡像異性体を区別するためのシフト試薬として興味がもたれており、これらリン原子上に不斉中心を有する、いわゆるP-キラルチオホスホン酸誘導体の有用性から、立体選択的な合成法の開発が注目されている。その中近年光学活性なビナフチル基を有するチオリン酸エステルの、TBAFを用いたリン原子上のフッ素化と続く加水分解によって、立体選択的にモノフッ化チオリン酸塩が得られることが明らかにされた。ここではリン原子上での置換反応がビナフチル基の軸不斉からリン原子の中心性不斉への不斉転写を伴って進行することが示されている。そこで本研究では、ビナフチル基を有するカルコゲノホスホン酸エステルに対して、酸素求核剤としてヒドロキシアニオンならびにエトキシアニオンを作用させることで、P-キラルカルコゲノホスホン酸誘導体の立体選択的な合成を目指した。 まず、ビナフチルオキシ基とリン原子上に種々の炭素置換基を有するチオホスホン酸エステルを加水分解した。その結果、水酸化リチウムをTHF/H2O中で作用させることで、対応するチオホスホン酸を高収率かつ、多くの場合に良好なジアステレオ選択性で得た。次に、チオホスホン酸エステルのエタノリシスも検討している。塩基としてリチウムエトキシドを用いると、エステル交換体が99:1と高いジアステレオ選択性で得られたものの出発化合物も回収された。すなわち加水分解では、カウンターカチオンとしてリチウムイオンが最適で、エタノリシスではナトリウムイオンが反応を促進する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上に記載の成果に加えて、合成したチオホスホン酸を有機分子触媒及びチタン錯体の配位子とする反応も行っている。すなわちアルデヒドのアミナールへの変換では収率75%、74%eeで目的化合物を得ている。この場合にリン原子上にキラリティーがあることの重要性も示された。またアルデヒドの不斉エチル化では、チオホスホン酸と類似の骨格のセレノホスホン酸ならびにホスホン酸を配位子として用い、チオホスホン酸を用いた場合に、最も高い鏡像体過剰率であることも明らかにできており、当初の計画通りほぼ順調に研究を展開している。
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今後の研究の推進方策 |
上記知見をもとに、今後は以下の検討を行う。 ・不斉転写反応の適用限界の拡大 軸性キラリティーの中心性キラリティーへの不斉転写反応の適用範囲の拡大を目指して、酸素求核剤に加えて、炭素、窒素求核剤を用いた反応も探索する。いずれの場合も用いる求核剤のカウンターアニオンの種類を選ぶことで反応の選択性を制御できることが期待される。またこれまでは出発化合物に含まれる二つのP-O結合のうち一方のみを選択的に切断していたが、それによって得られる化合物に含まれるもう一つのP-O結合の切断に伴う求核剤導入の系も探索する。これによってリン原子上に炭素置換基に加えて、酸素、窒素原子を組込んだ様々なP-キラル化合物の構築が可能になる。 ・不斉触媒反応への展開 ここで得られた一連の化合物群は、不斉有機触媒あるいは光学活性配位子として活用出来るため、より温和な不斉合成反応を達成するために、それらを適用する。
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