本研究では反応性イオン種の自在制御を実現するための「真のキラルイオン対触媒化学」を攻究し、①キラルカチオン②キラルアニオン③キラル分子内イオン対に加えて、④キラル分子間イオン対触媒に関する研究に取り組んだ。 ①これまでに積み上げたキラルカチオンを利用した立体制御に関する知見の、ラジカルアニオンを経る反応系への適用可能性について検証した。特に、光照射下での一電子酸化・還元過程を経て生じるラジカルアニオン種の利用を念頭に反応系を設計し、アミノホスホニウムイオンの作用により立体選択性が発現し得るかについて検討した。今のところジアステレオ選択性に課題が残っているが、既に90%を超えるエナンチオ選択性が得られており、触媒構造と反応条件の最適化によりキラルカチオンによるラジカルアニオンの精密制御が達成できたといえる。 ②プロトンを対イオンとするキラルボラートを調製し、キラルBronsted酸としての機能を評価した。具体的には、プロトン化駆動型Prins反応を案出し、環化段階のエナンチオ選択性を指標に反応系の最適化に取り組んだ。X線構造解析により明らかになったキラルボラートの三次元構造に対して、カチオン中間体が空間的に占める位置を想定した構造修飾を施すことで選択性の向上に成功し、非常に高いエナンチオ選択性を発現する触媒構造を見出すことに成功した。 ③キラル分子内イオン対型触媒として新たな方向性を模索し、従来全く注目されていなかったカチオン種を利用できる可能性を示唆する実験結果を得た。 ④キラルボラートを機能性カチオン種と組み合わせた触媒的反応系の開発に成功し、90%を超えるエナンチオ選択性が発現することも確認した。現在までに中間体イオン対の構造についての情報は得られていないが、基質を取り込んだ超分子型イオン対形成が鍵となっていると想定しており、新たなイオン対協奏型触媒系が開発できたと考えている。
|