芳香環上に任意の置換基を持つ芳香族は天然物や材料によく見られる重要な骨格であるため,芳香環に位置選択的に脂肪族官能基を導入する反応の開発の必要性は高い.アルキルアミンなどのヘテロ原子(窒素など)の隣の炭素上の水素を直接アリール基に変換することができれば,その有用性は高いが,これまで汎用性の高い方法は知られていなかった.我々は,そのような目的の基,脂肪族ラジカルの芳香環に対する付加と別のラジカル種の脱離からなる芳香族ラジカル置換反応を利用した含ヘテロ原子脂肪族化合物の直接α-アリール化反応の開発に取り組んで来た.その基本的戦略は,何らかの前駆体から発生させた tert-ブトキシラジカルが脂肪族化合物(R-H)から水素を引き抜き炭素ラジカル種が生じ,これが脱離基Yをもつ芳香環(Ar-Y)に付加したのち,Y ラジカルの脱離に伴ってα-アリール化体(Ar-R)が得るというものである.今年度は,前年度まで取り組んできたスルホニルアレーン(Ar-SO2R)を用いるアルキルアミンのα-アリール化反応を仕上げた.ここでは,脱離基であるスルホニルラジカルがアルキルアミンから水素を引き抜くことでラジカル連鎖が働き少量の tert-ブトキシラジカル源の利用で反応が進行したが,スルホニルアレーンを調製する必要があった.今年度はさらに,入手容易なハロゲン化アリールを芳香族化合物として用いて,アルコールのα-アリール化が進行することを明らかにした.また,ギ酸エステルを脂肪族化合物として用いて,そのホルミル水素の引き抜きとそれに続く脱炭酸を伴うβ開裂によって生じるアルキルラジカルを利用した芳香族のアルキル化反応などを開発した.
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