研究課題/領域番号 |
16H04157
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
池田 富樹 中央大学, 研究開発機構, 機構教授 (40143656)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 架橋液晶高分子 / アゾベンゼン / 光運動材料 / フォトクロミック分子 / 極低温 |
研究実績の概要 |
アゾベンゼンなどのフォトクロミック液晶部位を有する架橋液晶高分子に光を照射すると材料のマクロな変形が起こる。この光運動材料の駆動メカニズムは,フォトクロミック分子の光異性化・液晶分子の配向変化・高分子鎖の形態変化に基づく。近年の研究において,極低温条件(5ケルビン)においても光運動材料が駆動可能であることを見いだしている。本研究では,高分子鎖の「光運動」の学理を構築することを目的とし,架橋液晶高分子における光応答の温度依存性を探究する。モノマーユニットの構造・液晶部位の初期配向・架橋構造を制御して光運動材料を作製し,これらの因子と光運動特性の相関を明らかにすることをめざす。 従来型の架橋アゾベンゼン液晶高分子フィルムをクライオスタットで冷却し,真空下5ケルビンで紫外光・可視光を照射すると可逆的に屈曲した。このフィルムに温度プローブとして半導体カーボンナノチューブを積層し,電気抵抗の変化から光照射による温度上昇を評価したところ,真空下における光応答には無放射失活過程において発生する熱が大きく関与することが分かった。 低温条件における光応答性を詳細に調べるため,フィルムの温度上昇が抑制される液体窒素中においてアゾベンゼンの光異性化挙動を評価した。まずアゾベンゼンモノマーをポリマーマトリックス中に分散させた系について検討したところ,テール部位のアルキル鎖が短いほど光異性化が起こりやすいことが分かった。アゾベンゼンを有するリニアポリマーについても同様の傾向が見られた。これらの知見を基に架橋液晶高分子を再設計したところ,液体窒素中においてシス-トランス光異性化によるフィルムの変形を増大することに成功した。以上のように,低温条件における架橋アゾベンゼン液晶高分子の光運動はテール部位のアルキル鎖長に強く依存することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は架橋液晶高分子の光応答の温度依存性の解明と駆動メカニズムの探究を主題として研究を遂行した。まず従来型の架橋アゾベンゼン液晶高分子フィルムを作製し,真空下における屈曲挙動の温度依存性を評価した。光照射時におけるフィルムの温度上昇を評価するために,半導体カーボンナノチューブをフィルムに積層し電気抵抗測定を行った。これらの測定結果と液体窒素中における光応答性を比較することにより,真空下極低温条件における光屈曲には光熱変換過程が寄与することが明らかになった。 極低温条件における光応答性を向上させるため,次年度の計画を前倒ししてモノマーユニットの構造最適化に取り組んだ。スペーサー・テール部位のアルキル鎖長を変化させた様々なアゾベンゼンモノマーを合成した。モノマードープ系およびリニアポリマーについて液体窒素中における光異性化挙動を評価し,テール鎖長と光応答性との相関を見出した。この結果を踏まえてモノマーを選定し,架橋剤と混合してセル中で光重合することにより新規架橋アゾベンゼン液晶高分子フィルムを得た。新規フィルムは従来フィルムと比べて液体窒素中における光変形特性が飛躍的に向上した。以上のように,本年度までの研究により極低温条件における光運動と分子構造との関連を解明しつつあり,順調に研究が進展している。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究により,低温条件においてシス-トランス光異性化によるマクロ変形の効率を飛躍的に向上させることに成功した。一方,トランス-シス異性化による光運動については大幅な改善には至っていない。これまでの検討により,低温条件における光応答性はテール部位の鎖長に強く依存することが分かっている。さらにアゾベンゼン液晶モノマーと非晶モノマーを共重合することにより光異性化効率が大幅に向上することを見いだしている。これらの知見を基に分子設計を行い,トランス-シス異性化による光運動の効率向上をめざす。架橋液晶高分子の組成を様々に変化させて低温条件における光応答性を評価することにより,構造と光運動特性との相関を探求する。
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