研究課題/領域番号 |
16H04158
|
研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
三田 文雄 関西大学, 化学生命工学部, 教授 (70262318)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 遷移金属錯体 / 白金 / 共役高分子 / 光学活性 / 光電気機能 / 薗頭-萩原カップリング重合 / ポリフェニレンエチニレン / 配位子交換反応 |
研究実績の概要 |
遷移金属錯体を含有する共役高分子は,有機LED,有機薄膜太陽電池,非線形光学材料などへの応用が期待される。幾つかの白金錯体は,配位子交換反応により温和な条件でトランス構造からシス構造に転換する。今年度は,前年度とは逆の組み合わせ,すなわち,光学活性をもたない白金含有共役高分子と,光学活性ホスフィン配位子間における配位子交換反応ならびに反応前後での高次構造・特性の変化について検討した。 Pt(PPh3)2構造を有する白金含有ジエチニルフェニレンモノマーと1,4-ジヨードフェニレンモノマーおよび1,3-ジブロモフェニレンモノマーとの薗頭-萩原カップリング重合により得た。次に,これらのポリマーと光学活性二座ホスフィン配位子との反応を行った。所定時間後,反応溶液を大量のヘキサンに投入し,沈殿した固体を濾別して単離した。モデル反応として,モノマーと光学活性二座ホスフィン配位子との反応も合わせて行った。 配位子交換後のポリマーの31P NMRスペクトルより,リン間のメチレン鎖数2および3の二座ホスフィン配位子から,それぞれcis型およびtrans型の錯体構造を有するポリマーが生成したことが分かった。DLS測定ではそれぞれ直径15~18 nmおよび114~924 nmの粒子の存在が確認されたことから,後者は二座ホスフィン配位子により分子間で架橋した構造を有するポリマーであることが示唆された。 CDスペクトルにおいて,ポリマー主鎖由来の吸収領域である350~420 nm付近に,光学活性二座ホスフィン配位子のCDスペクトルには観測されなかったピークが観測されたことから,配位子のキラリティーがポリマー主鎖に伝達されていることが示唆された。以上, Pt(PPh3)2構造を有する共役高分子と光学活性配位子との配位子交換により,主鎖にキラリティーを有する含金属高分子の合成に成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,(1) 遷移金属錯体構造を有するモノマーの合成 (2) 遷移金属錯体構造を有するモノマーを用いるカップリング重合 (3) 生成高分子の分子量および一次構造の決定 (4) 生成高分子の二次構造の検討 (5) 高分子の液晶性の評価 (6) 高分子主鎖金属部位の配位子交換反応 (7) 配位子交換後の二次構造・諸物性変化の検討 (8) 密度汎関数法および分子動力学計算による配位子交換の解析 (9) 得られる含金属共役高分子の光電気機能および触媒機能評価 (10) 固体状態での配位子交換 を目的としている。 平成29年度は,エチニル基あるいはクロロ基を2個有する,光学活性をもたない含金属AA型二官能性モノマーの合成;ハロアリレン基あるいはエチニル基を有するBBモノマーの合成;これらのモノマーを用いる薗頭-萩原カップリングあるいは脱塩酸カップリング重合による,含金属新規共役高分子の合成;配位子交換反応;より高効率の重合および配位子交換反応条件の検討;高分子の一次構造のIR・ラマン・1H・13C・31P NMRスペクトル測定による分析,31P核のカップリング定数測定による,金属部位の幾何構造を決定;紫外可視吸収スペクトルによる共役長の検討,円偏光二色性スペクトルによる不斉高次構造の検討;DLS測定による粒径分布解析による凝集構造の形成についての知見の収集;偏光顕微鏡,蛍光顕微鏡観察による液晶形状の検討を予定していた。前述したとおり,これらの計画を概ね達成することが出来た。
|
今後の研究の推進方策 |
高分子主鎖金属部位の配位子交換反応:高分子の単座ホスフィン配位子を二座配位ホスフィン配位子に交換して,主鎖の幾何構造の転換反応を行い,反応の進行をNMRおよびUV-visスペクトル測定により追跡する。光学活性を有する高分子においては,旋光度測定,円偏光二色性(CD)・円偏光発光(CPL)スペクトルによって二次構造を検討する。さらに,モノマー繰り返し単位のモデル化合物を用いて配位子交換を実施して各種スペクトルを比較し,高分子の配位子交換進行の判断材料とする。さらに,以下の密度汎関数法(DFT)および分子動力学(MD)計算による配位子交換の解析を実施,反応機構に関する知見を収集して分子設計にフィードバックすることにより,より高効率かつ生成物の高次構造の制御,光電気特性の向上を目指す。 (1) DFT計算:汎関数として,広く用いられているB3LYPに加え,含金属分子の非共有結合性相互作用を評価可能なM06を用いて計算を実施し,コンホメーション解析(単分子および分子集積状態),配位子交換効率の検討,交換反応の前後のエネルギー計算,反応の活性化エネルギー計算,エネルギー準位計算によるHOMO-LUMOバンドギャップの見積もり,UV-visスペクトルおよびサイクリックボルタンメトリー(CV)測定との対比を行う。 (2) MD計算:メタルセンターパラメータービルダー(MCPB)を活用し,含金属分子の動力学計算によるコンホメーション・エネルギー解析を実施する。 (3) Atom Centered Density Matrix Propagation (ADMP) MD計算による配位子交換反応のシミュレーション:配位子交換反応機構に関するより高度な知見を得るために,ADMP MD計算を実施し,反応のシミュレーションを実施し,速度論的な解析を試みる。
|