令和2年度においては,(1) 酵素安定化機構の解明,(2) 機能集積型酵素センサー開発,(3) 高感度計測系の開発の3課題について研究を遂行した。 課題(1):令和元年度までに熱測定によるタンパク質吸着の評価系を構築し,モデルタンパク質であるミオグロビンの細孔内吸着がLangmuirモデルと異なることを見いだしている。また,細孔サイズとミオグロビン高次構造の相関について,中性子散乱や赤外吸収などの多面的な評価から,ミオグロビン高次構造が細孔サイズよりは細孔内表面状態に強く依存することも明らかとした。令和2年度においては,ミオグロビン数分子が最密充填する7~7.9 nmのメソポーラスシリカ細孔入り口に偏在し,その長さとしておよそ20 nmであることを熱測定と中性子散乱測定から明らかとした。また,細孔入り口の偏在は,吸着時のミオグロビン濃度が低いときに顕著となることも明らかとした。これらの結果は,酵素センサー設計の指針となるものである。 (2) 機能集積型酵素センサー開発:細孔内酵素反応によって生成する過酸化水素の計測試薬の開発を進めると共に,安定かつ高感度なセンサー開発を進めた。その中で,過酸化水素を高感度計測するための新規蛍光プローブを合成した。また,ヒドロゲル,酵素充填メソポーラスシリカ粒子,白金電極を成膜したナノ流路集積膜を適切に配置した,高感度な簡易酵素センサーの開発を行った。 (3) 課題(2)で得られた成果を基に,高感度計測系の設計を行っている。令和2年度内に再現性,感度に優れたグルコースセンサーの開発を実証した。このセンサーはだ液や尿など非侵襲試料中のグルコース計測に十分な感度を有しており,新規酵素センサーとして発展性を確認した。
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