研究課題/領域番号 |
16H04164
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
大谷 肇 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50176921)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 熱分解分析法 / パイロライザー / 水素供与 / フェノール樹脂 / テトラリン / マイクロ反応サンプラー / マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法 / キサンテン構造 |
研究実績の概要 |
ポリマー材料の全化学構造解析を可能にする革新的な高性能パイロライザーを開発するために不可欠な「固体残留物の生成を極限まで抑制する新規分解反応場」の構築のための第一段階として、熱分解GC-MS及びマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法(MALDI-MS)を用いて、フェノール樹脂硬化物のテトラリン分解生成物を解析して、分解メカニズムを解明することを試みた。これまでに、不溶不融化したフェノール樹脂硬化物を水素供与性溶媒であるテトラリンを用いて残留物なく可溶化することが報告されているが、詳細な分解機構は明らかにされていなかった。 微小なガラスカプセル(内容量約0.1 mL)の中に、フェノール樹脂硬化物0.67 mgとテトラリン0.02 mLを加えて密封後、所定の温度(450℃, 470℃, 500℃)に設定した熱分解装置内のマイクロ反応サンプラーに導入し1時間加熱した。分解後にガラスカプセルを開封して分解生成物を回収し分析した。回収したテトラリン分解物を熱分解GC-MS測定すると二核体成分が、MALDI-MS測定ではオリゴマー領域の9核体までの分解生成物が観測された。これらの分解生成物中に、脱水反応が進行して形成されるキサンテン構造を持つ成分が観測され、テトラリン分解温度を高くすると、その割合が増加することが分かった。さらに、フェノール樹脂硬化物のネットワーク構造を反映した3置換したフェノール核を持つ成分も観測された。以上の結果から、フェノール樹脂硬化物のテトラリン分解の過程では、隣接したヒドロキシ基どうしの脱水反応が進行しつつ、メチレンブリッジの開裂とテトラリンから解離した水素の供与により、もとのネットワーク構造を反映した分解物が生成されることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、従来の熱分解ガスクロマトグラフィーにおける最重要課題であった、ポリマー材料の精密組成・構造解析における情報の損失・変性や定量性の欠如などを、「固体残留物の生成を極限まで抑制する新規分解反応場」、および「低揮発性分解生成物の分析系への定量的導入法」の確立により打開し、ポリマー材料の全化学構造解析を可能にする革新的な高性能パイロライザーを開発することにある。この中で、「固体残留物の生成を極限まで抑制する新規分解反応場」を構築するために、テトラリン分解法を利用できる可能性を実験的に確かめることができた。また、その過程で密閉系熱分解反応場の実現に不可欠なマイクロ反応サンプラーについて、従来想定されていたよりもかなり高温である、少なくとも500℃まで何ら問題なく使用できることを、実験的に明らかにできたことも、本研究の今後の進展に大きくつながるものと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
1. 水素供与性試薬を利用した特異的分解反応場の構築 28年度に検討を進めてきたテトラリンを水素供与性の反応試薬として用いるフェノール樹脂硬化物をはじめとする各種樹脂試料の分解反応解析を、29年度以降もさらに進める。少なくとも500℃までの使用に耐えうることを確認したマイクロ反応サンプラーを引き続き使用し、さらに高温での使用の可能性を追求するとともに、必要に応じた設計の見直し、試作も場合によっては行う。さらに、テトラリン以外にも、超臨界アセトンや酸性クレゾールなどの使用も試みる。さらに、触媒の添加や反応容器材質の見直しなどにより、構造解析により適した効率と選択性に優れた分解反応条件の確立を目指す。 2.酸化物半導体の熱活性を利用した高効率分解反応場の構築 先端ポリマー材料としても頻用される光・熱硬化性樹脂材料は、その強固な架橋ネットワーク構造により特に熱分解しにくく多量の固体残留物を一般に生成する。こうした樹脂を、光触媒としても知られる酸化チタンなどの酸化物半導体とともに高温下に置くと、半導体の熱活性によりラジカルが生成し、その伝播によって効率的にフラグメント化する現象が知られている。ここでは、半導体により有機されるこの特異的な現象を活用して、残渣を生じない反応場の確立を目指す。酸化チタンでは十分な効果が発現しない場合には、より高活性の酸化クロムなどを利用する。分解機構の詳細な解析のため、二段式熱分解装置なども活用する。 3. 低揮発性分解生成物の定量分析を可能にするパイロライザーの開発。 従来の熱分解GCでは解析対象としてみなされなかった、低揮発性分解生成物の定量的かつ精密な解析を可能にする高性能パイロライザーの開発を目指す。ここでは研究代表者らがこれまでに開発してきたバースユニットをもとに、前項で確立する新規分解反応場に適合したシステムへとレベルアップを図る。
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