本研究の目的は,電気化学顕微鏡を用いて,単一筋管細胞の酸素消費速度およびグルコースの取り込み速度を同時に計測できるシステムを確立し,拍動する筋管細胞の酸素消費およびグルコース取り込み速度を測定することである.本年度は,この目標を達成するために,昨年度までに取り組んだ,デュアルマイクロ酵素電極の開発と評価,誘電泳動や細胞接着領域の制御を利用した細胞アレイの作製,隔膜型の電気化学顕微鏡システムの開発を引き続き行った. ポリドーパミンの電解酸化による酵素の包括固定を利用しデュアルマイクロ酵素電極の作製を行った.この電解重合法を用いると,ミクロンオーダーで近接したマイクロ電極の片方の電極に,迅速,簡便,選択的に酵素を固定化することが可能であった.ドーパミンの自己酸化により形成したポリドーパミン薄膜をポリエチレングリコール(PEG)で処理すると細胞接着を抑制できた.ポリドーパミン-PEG膜上への細胞の接着性は,誘電泳動による細胞操作を利用して評価した.正の誘電泳動を用いてこの膜上に集積化した細胞は,負の誘電泳動により簡単に排除されたため,この膜は細胞接着を抑制できることがわかった.マイクロステンシルや選択的な電解重合を用いて,ポリドーパミン-PEG膜のマイクロパターンを形成し,その上で細胞を培養することにより細胞パターンを得ることができた. 多孔質のPET膜を上面基板に利用したマイクロ流路型デバイスを作製し,マイクロ電極を用いた誘電泳動により隔膜上に細胞アレイを形成した.そのマイクロ電極を電気化学プローブとして利用することにより,細胞近傍の酸素還元電流プロファイルを得た.この手法により,パターン化細胞の酸素消費量を行えることがわかった.電極-細胞間距離の制御が不要な新しい電気化学顕微鏡システムとして期待できる.
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