本研究では、血流を模擬する環境下で生理的に適切な血管モデルを構築し、「血管透過性」「血管新生 (細胞増殖と遊走能)」などを計測・評価する新規方法を開発する。今年度は応用実験として血液細胞産生モデルについての検討をした。哺乳類の発生初期において胚の大動脈で産生する血液細胞は、中胚葉、造血幹細胞、造血前駆細胞を経て各種血液細胞に分化する。このプロセスに血流が関わっていることが示唆されている(Nature 2009)。そこでマイクロデバイス内でES細胞を血液細胞に分化させる際に血流に見立て培地を送液して、分化効率へ影響するかどうか調べた。ポリジメチルシロキサンPDMSで作製したマイクロデバイスの流路内にマウスのストロマOP9細胞をフィーダー細胞として培養し、そこにES細胞から分化誘導した中胚葉細胞を一定量播種し共培養した。培地をシリンジポンプで送液し3日目以降に血液細胞の産生の有無を観察したところ、送液の有無で産生数はほぼ変わらず、仮説と異なり送液の刺激で分化誘導は促進されないことがわかった。拍動流を与えるポンプで培養した場合にも、血液細胞数は増えなかった。一方、OP9細胞の馴らし培地をES細胞の分化誘導に用いると血液細胞の産生数が増加することが示された。さらに細胞に伸展刺激を与えるデバイスでOP9細胞を培養して得た培養上清では、多くの血液細胞が得られたことから、OP9細胞の伸展刺激により分化誘導因子の放出量が増加する可能性が示唆された。
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