核共鳴振動分光法は複雑な構造を有する酵素のなかで、活性中心にある鉄の振動のみを抽出できるという大きな特徴をもつ。活性中心に金属をもつ金属酵素のなかで鉄酵素は水素を酸化還元するヒドロゲナーゼをはじめ、エネルギー問題・食糧問題・医療などと密接に関わっているものが多い。一方で、分解能や強度の不足により、観測したい試料・振動モードが限定されることは利用の大きな障壁となっている。本研究では、極めて重要でありながらこれまで測定困難であった鉄酵素の活性機構の解明に資するため、鉄酵素試料に最適化された高分解能・高感度の核共鳴振動分光装置を開発することを目的としている。 平成30年度には平成28年度に製作した平行化レンズが放射線ダメージで損傷していることが確認されたため、平行化レンズを更新し、分光装置の性能を維持するとともに、今後の対策を検討した。また本科研費で開発した核共鳴振動分光装置を利用し、ヒドロゲナーゼ、ニトロゲナーゼなどの鉄酵素のさまざまな状態での振動分光測定を行った。 9月に開催された第42回日本鉄バイオサイエンス学会学術集会において、開発した核共鳴振動分光装置およびそれを利用したSPring-8での成果を紹介した。同様な内容を主体とするSPring-8での核共鳴散乱研究について、2月にインドで開催されたInternational Conference on Hyperfine Interactions and their Applications (HYPERFINE2019)において招待講演を行い、その成果論文をHyperfine Interactionsに投稿し受理された。
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