研究実績の概要 |
本研究では、先に決定した紅色光合成細菌由来の光捕集反応中心超分子複合体LH1-RCの結晶構造(Nature 508, 228; 2014)に基づいて、(1)光捕集複合体の吸収挙動と構造安定性を制御する構造要因の特定、(2)キノン輸送機構の解明、(3)反応中心複合体の構造と特性の再検証、(4)膜リン脂質と複合体との間に存在する特異的な相互作用の解明を目的とする。さらに、(5)より高分解能での結晶構造解析を目指す。 本年度は上記計画の項目(1)、(2)と(3)に関連して、キメラ型光捕集反応中心複合体LH1-RCの作製、特性評価と構造解析に取り組んだ。常温菌では、LH1の近赤外領域における吸収極大(Qy遷移)が880nmに位置するのに対して、本研究で用いる好熱性光合成細菌Tch. tepidum由来のLH1は約35nmも長い915nmに吸収極大をもっている。これらの挙動にカルシウムイオン(Ca2+)が深く関わっていることがわかっている。そこで、結晶構造から推測されたCa配位アミノ酸残基の役割と寄与の度合いを調べるために遺伝子工学的手法により変異を導入し、改変することによってQy遷移がどのような挙動を示すのかを検証するとともに、各種変異体の特性評価と構造解析を行った。その結果、LH1α鎖における49位のアミノ酸残基Asp49がLH1の分光学的挙動に重要な役割を果たすことが判明した。一方、LH1α鎖中の50位AsnがCa2+配位に関与しないことがわかった。これらの結果は最近高分解能の結晶構造解析(Nature 556, 209; 2018)によって実証され、米国科学アカデミー紀要に掲載された(Proc. Natl Acad. Sci. USA 114, 10906; 2017)。
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