研究課題/領域番号 |
16H04174
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
大友 征宇 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 教授 (10213612)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 光合成 / 光捕集 / エネルギー移動 / 光電変換 |
研究実績の概要 |
本研究では、先に決定した紅色光合成細菌由来の光捕集反応中心超分子複合体LH1-RCの結晶構造(Nature 508, 228; 2014)に基づいて、(1)光捕集複合体の吸収挙動と構造安定性を制御する構造要因の特定、(2)キノン輸送機構の解明、(3)反応中心複合体の構造と特性の再検証、(4)膜リン脂質と複合体との間に存在する特異的な相互作用の解明を目的とする。さらに、(5)より高分解能での結晶構造解析を目指す。 2017年度に行った上記計画の項目(1)、(2)と(3)に関連するキメラ型光捕集反応中心複合体LH1-RCの作製、特性評価と構造解析に続き、2018年度は項目(4)と(5)に取り組み、大きな進展があった。5種類の紅色硫黄及び非硫黄細菌の光合成膜中に含まれるリン脂質の組成および単離精製された光捕集反応中心複合体LH1-RCに結合しているリン脂質を31P-NMRと誘導結合プラズマ蛍光発光(ICP-AES)測定によって同定し、リン脂質組成と菌体の生育条件や膜タンパク質の性質との関連性を調べた。ほとんどの光合成細菌から精製されたLH1-RCにはカルジオリピン(CL)が主成分であることが判明され、膜中でマイナー成分のCLがLH1-RCに特異的に強く結合していることが示唆された。一方、好熱性光合成細菌Tch. tepidumから単離されたLH1-RCについてさらに高分解能での結晶構造解析に成功した。前述リン脂質の結果はこのLH1-RCの高分解能構造からも確認され、CLがLH1-RC複合体の機能発現と構造安定性に大きな役割を果たしていることがわかった。これらの成果はNature誌(Nature 556, 209; 2018)と国際学術誌(Biochim. Biophys. Acta-Bioenergetics 1860, 461; 2019)に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本補助金を受ける前から通常の菌体培養から色素タンパク質複合体の精製、リン脂質の特性評価までの手法が確立され、各種予備実験などを行ってきたため、本研究課題をスムーズに進行させることができた。3年目の2018年度は性質が少しずつ異なる5の種類の光合成細菌から膜及びLH1-RCのリン脂質分析を手がけたため、結果の再現性確認に長い時間がかかったことはあったが、研究協力者たちとの努力によって14年の歳月をかけて取り組んできた広範な光合成細菌における膜組成とリン脂質分布ならびに単離された光合成複合体に特異的に結合しているリン脂質の定量評価を行うことができた。また、この成果を速やかに学会発表と国際学術論文誌を通して社会に発信することができた。以上のことを総合的に判断した結果、上記の評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの成果を踏まえ、今後低温電子顕微鏡(Cryo-EM)による光合成細菌のLH1-RC複合体の構造解析を計画してる。近年急速な発展を見せているクライオ電子顕微鏡による単粒子解析は、タンパク質の構造解析において不可欠な手法になりつつある。この手法の利点として、結晶化の必要がなく(構造決定にかかる時間が短い)、少量の試料(数十μg程度)で可能、サイズの大きいタンパク質複合体を得意とすることなどが挙げられる。古くから電子顕微鏡は細胞、組織、巨大な複合体など様々な生体物質の形状観察に利用されてきたが、最近この分野の高分解能化は主に試料調製法の確立、高性能カメラの開発と画像処理技術の進歩によって実現されている。2019年度では、まず数種類の紅色細菌のLH1-RC複合体について、測定条件のスクリーニングを行い、高分解能の構造解析を目指す。一方、極限環境下に生息する光合成細菌のLH1-RC複合体の単離精製と特性評価を行う予定である。その多くは特異な生化学的性質と分光学的挙動を示すことが知られ、その構造的要因を特定することにより、これらの微生物の生存戦略の一端を明らかにすることが期待できる。
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