まず初めに、環状RNAを用いた終わりのない回転式翻訳現象を利用し、真核系における効率的な単量体タンパク質合成法の確立を試みた。自己切断型ペプチド2Aのコード配列を含む環状RNAを設計合成し、この環状RNAをウサギ網状赤血球翻訳液中で翻訳し、ウェスタンブロット法により解析した。その結果、目的とする単量体翻訳物はほとんど増加しなかったものの、長鎖産物がほぼ消失したことから、目的とする単量体生成反応の進行が示唆された。次に、真核系における長鎖タンパク質の効率的合成法の確立を目的としてIRES配列を導入した環状RNAを設計・合成し、翻訳反応を評価した。転写RNAから、スプライシング機構を経て環状RNAが生ずる系を作成した。これにより回転式翻訳機構により緑色蛍光タンパク質 (GFP)がタンデムに連なって生ずると期待した。作成したプラスミドDNAをヒト由来培養細胞であるHEK293Tへ導入し、蛍光顕微鏡観察により目的とするGFP由来の蛍光を観察した。その結果、目的とする系における蛍光増強現象は確認されなかった。IRES配列の改変により環状RNAからの翻訳反応開始の非効率化が起きた事が一因であると推測するが、加えて、GFPのタンデムリピートが蛍光性を保持しているかどうか確認する必要がある。最後に、環状RNAの翻訳効率改善を目指し、RNA中のリン酸骨格をチオ化した。T7 RNAポリメラーゼによる転写反応に1-チオNTPを添加することでチオ化RNAを作成した。直鎖型RNAを用いて翻訳活性を評価したところ、非チオ化天然型RNAと比較し、チオ化により真核系では翻訳能が低下するものの、原核系では向上することが分かった。原核系で翻訳活性が向上する理由が、翻訳開始反応の迅速化であることが示唆された。加えて、環状RNAの合成方法としてケミカルライゲーション法が適用可能であることを確認した。
|