研究課題
エンドサイトーシスは、細胞膜から生じる小胞により行われる細胞内への物質輸送である。その一つであるカベオリンを介するエンドサイトーシスは、ウイルス感染、毒素の侵入他、種々の疾患に関わっているが、その分子機構の詳細は明らかになっていない。カベオリンは、リン酸化、脂肪酸修飾、膜結合部位等を有する複雑な構造を持ち、組換えDNA法による調製が困難である。この問題がカベオリンを介するエンドサイトーシス機構の解明を阻害する一つの大きな原因となっている。本研究では、種々の修飾を自在に導入できる化学法により、カベオリンを合成する方法を確立する。そして、リン酸化、脂質修飾がカベオリンの機能にどのような影響をおよぼすのかを解明し、カベオリンを介するエンドサイトーシスの機構解明を目指す目的で研究を進めている。固相合成の適用限界は50残基程度であるため、タンパク質の化学合成法では固相合成した50残基程度のペプチド同士を縮合してタンパク質を得る戦略をとる。そこで、カベオリンについてもセグメント1-5に5分割して合成するルートを計画した。本年度は、チオエステル法によるカベオリンを行うため、カベオリンを構成する5つのセグメントの調製を行った。まず、最初の合成計画に基づき5つのセグメントをそれぞれ固相法により合成した。その結果、膜と相互作用するセグメント3-5は、種々の溶媒に対する溶解性が低く、合成、精製とも困難であることが明らかとなった。そこで、これらのセグメントに関しては溶解性の向上に寄与するイソペプチド結合を導入して再合成を行うこととした。その際、セグメントの分割部位の再検討も行った。3つのセグメントの固相合成を行った結果、いずれも溶解性の向上が見られ、目的物を得ることに成功した。今後、これらのセグメントの大量合成を行うとともにセグメント縮合を進める予定である。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、当初の計画に従い、カベオリンを構成する5つのセグメントの調製を行った。膜貫通部位を持つタンパク質であることから、膜貫通部位を持つセグメント調製の際に難溶性の問題に遭遇することは当初から予想されていた。実際に、これらのセグメントを通常の方法で合成した場合、目的物は取れるものの、収量は極めて低いものであった。そこで、イソペプチド結合の導入等、ペプチドの可溶化を促す方法を適用してセグメントの再合成を行ったところ、溶解性の向上が見られ、5つすべてのセグメントの合成が可能であることが示された。以上のように、本年度の計画はほぼ達成されたことから、ほぼ計画通りに進行していると判断した。
膜結合部位のセグメントの合成における大きな問題点は、固相合成後の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた精製の段階である。これらのセグメントは高度に疎水性であるため、精製時に用いるアセトニトリル水溶液に対する溶解性が低く、カラムに強く吸着して大きな回収率低下を招く。本年度、この問題点をイソペプチド結合や極性保護基の導入等により解決できたので、この方法を用いて縮合に十分な量のセグメントを確保する。その後セグメント縮合法の一つであるチオエステル法を用いて縮合を進める。疎水性が極めて高いことを考慮し、セグメントを結合する順番を種々検討して、溶解性を保ちつつ全長を得る方法を見出す予定である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
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