研究課題/領域番号 |
16H04182
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
柴山 敦 秋田大学, 国際資源学研究科, 教授 (30323132)
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研究分担者 |
山田 学 秋田大学, 理工学研究科, 助教 (90588477)
芳賀 一寿 秋田大学, 理工学研究科, 助教 (10588461)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | リサイクル / 貴金属 / 浸出 / ハロゲン / 溶媒抽出 / ピンサー型抽出剤 |
研究実績の概要 |
白金族金属の浸出条件を検討するため、高温高圧条件を付与できるオートクレーブを用いた自動車排ガス触媒の浸出を行った。その結果、塩酸濃度1 mol/L、浸出時間1時間、浸出温度120 ℃、オートクレーブの内圧1 MPaで、触媒に含まれるパラジウムを91%浸出できることがわかった。一方、白金およびロジウムの浸出率は40%程度に留まることから、白金やロジウムを浸出するためにはより高温または高濃度塩酸が必要になることが推察された。また、同じハロゲン溶液としてヨウ素―ヨウ化物溶液を用いた廃電子基板中の金の浸出試験を実施した。今回の試験では、硫酸加圧条件の下、オートクレーブを使って基板を前処理浸出したものを投入した。浸出温度40℃,浸出時間120分,ヨウ素濃度 1 g/Lの条件で浸出を行うと99 %以上の金を浸出できた。さらに、浸出した金は活性炭によって吸着回収できることを確認した。浸出条件や金の回収方法は今後調査が必要であるが、ヨウ素系溶液によって金の効果的な浸出が可能であることを明らかにした。 一方、白金族を選択的に回収するカニばさみ型抽出剤の合成では、ベンゼン環部位にOH基が2個結合したレソルシノールに対し、2段階反応によるアミド基の導入を試みた。アミド基は、レソルシノールが持つ2個のOH基の酸素部位にエチルアセテート基を導入した後、n-オクチルアミンを導入したエチルアセテート基に作用させることで合成を行った。合成した抽出剤をパラジウム単独溶液に試した結果、抽出挙動が溶液の酸種に大きく依存し、硝酸溶液において抽出効率が最も良いことがわかった。また、抽出剤と溶液中パラジウムイオンとの抽出メカニズムを検討するため、スロープ解析を行った結果、化学量論比が抽出剤:パラジウム=1:1であることが確認され、抽出剤1分子がPd(Ⅱ)イオン1個に配位している可能性が高いことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
オートクレーブを用いた塩酸浸出では、自動車排ガス触媒からパラジウムを90%以上浸出できることを確認したほか、ヨウ素―ヨウ化物溶液を用いた廃電子基板の浸出では99%以上の金が浸出できることを明らかにした。浸出した金は活性炭によって吸着回収できることを確認したほか、現在はヨウ素-ヨウ化物溶液から金を沈殿回収する手法についても可能性を調査している。初年度の研究結果から、塩酸溶液での白金族浸出を継続調査しているほか、新たな溶液を用いた浸出方法を検討するなど研究は予定通りに進捗していると考えられる。 一方、カニばさみ型抽出剤の合成では、当初予定していた塩酸浴からの白金族抽出に限ってみると改善すべき点が残されているが、硝酸溶液に存在するパラジウムPd(Ⅱ)イオンは選択的かつ効率的に抽出できることがわかっている。また抽出時のパラジウム錯体との配位の仕方や化学量論的な考察により、抽出機構の解明が進むなど順調な成果が得られている。現在、塩酸浴に溶解した白金族回収に使用できる新たな構造体の検討を進めており、硫黄を官能基にもつ化合物を具体化するなど、新たな抽出剤の合成に取り組んでいるところである。以上を総括すると、当該年度の研究としては、おおむね順調に進んでいると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
貴金属の浸出に関する研究では、平成28年度に引き続き、金および白金族の浸出試験を行い、ハロゲン溶液を中心に浸出特性の解明と条件の最適化を進める。基本的には塩酸溶液や塩化物溶液を対象に、ビーカー浸出に加え、平成28年度に購入した卓上型オートクレーブ(加温加圧反応装置0.2L型)を使って、酸素加圧下での白金族金属の溶解性を調べる。また、塩素、塩酸系以外の可能性を探るため、ヨウ素溶液や新たな溶液としてチオ尿素などを用いた浸出試験を行う。これらの試験によって金および白金族金属の効果的な浸出条件を明らかにする。さらに廃電子基板や自動車排ガス触媒を用いた試験によって、実用化に近づけるための考察や浸出機構の解明を目指す。浸出メカニズムの推察や貴金属錯イオンの形態を推測する手がかりとして、平成28年度に購入した地球科学計算ソフトのほか、今年度購入予定のFactsageデータベース SGnoblを用い、溶液特性の考察や浸出液に含まれる錯イオンの形成条件について論考を行う。 一方、カニばさみ型抽出剤の合成では、アミド基を導入した抽出剤の硫化反応によるチオアミド化を検討し、合成でき次第、貴金属の抽出試験を実施する。また、レソルシノールへのリン酸エステル基の導入も検討する。さらに、ベンゼン環のジイソプロピル部位にOH基(ヒドロキシ基)を2つ結合したα,α’-ジヒドロキシ-1,3-ジイソプロピルベンゼンを基本骨格とし、硫黄原子を含むアルキルスルフィド基や、エステル基を含むメルカプトアセテート基など、貴金属錯イオンと配位しやすい官能基の導入(修飾)を進める。また、抽出剤の構造特性を比較検証するため、ベンゼンにメチル基を2個持つα,α-ジブロモ-m-キシレンにも官能基を導入し新たな化合物を合成する。合成後は、貴金属との親和性を溶媒抽出法にて調査し、抽出特性や抽出条件の解明を行う。
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