研究課題/領域番号 |
16H04185
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
木田 敏之 大阪大学, 工学研究科, 教授 (20234297)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 環状オリゴ糖 / 分子集積化 / 分子認識空間 / 吸着材料 / 有害物質 |
研究実績の概要 |
非極性溶媒中で高いゲスト分子包接能を示すことがすでに明らかになっている、6位水酸基をtert-ブチルジメチルシリル基で修飾したβ-CD (TBDMS-β-CD)を、m-キシリレンあるいはp-キシリレンリンカーを用いて二量化したTBDMS-β-CDダイマーを設計・合成した。このTBDMS-β-CDダイマーは、非極性溶媒中のみならずTHF等の極性溶媒中でも効果的にゲスト分子を包接し、TBDMS-β-CDを二量化することで幅広い溶媒中でのゲスト分子包接が可能となることが明らかとなった。また、TBDMS-β-CDと5当量のキシリレンリンカーを反応させることで、TBDMS-β-CDの2位水酸基すべてにリンカーが結合した新規β-CDダイマーを合成することにも成功した。このβ-CDダイマーからのTBDMS基の脱離反応を種々の条件下で検討したところ、テトラメチルアンモニウムフルオリドを用いて脱離反応を行った時、β-CDダイマーの片側のCD環上のTBDMS基 (7個) のみが脱離したヤヌス型β-CDダイマーが選択的に得られることがわかった。一方、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を用いて脱離反応を行った時は、すべてのTBDMS基が脱離した生成物が得られた。ゲスト分子に種々の長鎖脂肪酸エステルを用いて、重メタノール中でのヤヌス型β-CDダイマーの包接能についてNMR滴定法により検討したところ、脂肪酸エステルの鎖長の増加とともに会合定数の増加が認められた。また、ヤヌス型β-CDダイマーは飽和脂肪酸エステルやトランス脂肪酸エステルよりもシス脂肪酸エステルに対して高い包接能を示すことがわかった。シス体の折れ曲がった構造がヤヌス型β-CDダイマーの空孔の形により適合していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
6位水酸基をtert-ブチルジメチルシリル基で修飾したβ-CD (TBDMS-β-CD)二分子を複数の芳香族リンカーで連結させた新規なTBDMS-β-CDダイマーを合成し、そのTBDMS基の脱離反応を巧みに制御することで、すべてのTBDMS基が完全に脱離したβ-CDダイマーあるいはTBDMS-β-CDダイマーの片側のCD環上のTBDMS基 (7個) のみが脱離したヤヌス型β-CDダイマーを選択的に作り分けることに成功した。このヤヌス型β-CDダイマーは長鎖脂肪酸エステルに対して高い包接能を示し、特にシス型の長鎖脂肪酸エステルに対して高選択的な包接能を示すことが分かった。このように、β-CDを集積させたβ-CDダイマーが特定の長鎖脂肪酸エステルに対して選択的な包接能を示すことが明らかとなり、CD分子を集積化する本手法が、長鎖脂肪酸エステルの選択的包接に有効であることが確認された。以上のことから、当初の計画通り順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
オイル中の有害物質を高効率除去できるCD分子集積体の設計・合成と吸着能の評価 1.α-CD分子集積体の設計と合成 前年までに得られた知見に基づき、α-CDならびにα-CD誘導体を出発物質に用いて、これらを適切な連結基で化学架橋したα-CD二量体(α-CDダイマー)を設計・合成する。さらに、α-CDならびにα-CD誘導体の自己組織化を利用してのチャンネル型α-CD分子集積体の設計・合成、α-CD二量体(α-CDダイマー)の自己組織化によるチャンネル型α-CDダイマー集積体を設計・合成する。 2.植物油中の有害脂肪酸エステルに対する吸着能の評価 上記1で合成したα-CD集積体を用いて、植物油中のトランス脂肪酸エステル、グリシドール脂肪酸エステルに対する吸着能を評価する。吸着除去能の評価は、ガスクロマトグラフ、核磁気共鳴装置、高速液体クロマトグラフを用いて行う。吸着実験は、トランス脂肪酸エステルを含む植物油中にα-CD集合体を直接添加し、所定時間撹拌して吸着を行う「バルク法」と、α-CD集積体を充填したカラムの中にトランス脂肪酸エステルを含む植物油を通液させて吸着を行う「カラム法」の2つの方法を用いて行い、効果的なトランス脂肪酸エステル除去が行える方法を選択する。また、ここで得られた結果をもとに、植物油中のグリシドール脂肪酸エステルに対し高い吸着能を示すα-CD集積体の設計・合成も行い、グリシドール脂肪酸エステルに対する吸着能を「バルク法」ならびに「カラム法」により評価する。 3.植物油中の有害脂肪酸エステルとCD分子集積体間での包接錯体の構造の解明と包接メカニズムの検討 二次元NMRスペクトル、X線回折装置を用いて、各CD集積体と有害脂肪酸エステル間で形成される包接錯体の構造を解析し、植物油中での有害脂肪酸エステル包接のメカニズムの解明を行う。
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