研究課題/領域番号 |
16H04187
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松尾 豊 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任教授 (00334243)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | ポルフィリン / 有機薄膜太陽電池 / ジケトピロロピロール |
研究実績の概要 |
本年度は,過去に報告したポルフィリン誘導体ドナーを更に高性能化することを目的とした.これまで合成してきたドナー分子(J. Mater. Chem. 2012, 22, 19258. 等)は,エチニル基の保護と溶解度向上を目的に嵩高いトリイソプロピルシリル(TIPS)基を有していた.確かにこれまでのドナー分子は溶解度が高く薄膜作製には向いていたもの,TIPS基の嵩高さにより分子間相互作用が阻害され,固体中での電荷移動度が低い要因となっていた.今年度は,このTIPS基をフッ化テトラブチルアンモニウムにより除去し,いくつかのアリール基導入を検討した.TIPS基を用いないことによる溶解度低下は,溶媒や添加する配位性分子の選択により,ポルフィリン中心への配位を伴う分子間相互作用の低減と溶解度向上を制御することとした. まず基礎的な性質を調べるために,フェニル基および3-トリフルオロフェニル基の導入を行った.TIPS基を除いたことにより予想通り溶解度が低く, 現在のところ良好な特性を示す太陽電池素子作製には至っていないが,条件を変えた結晶化と得られた結晶のX線結晶構造解析,TG-DTA測定により,分子への溶媒配位/脱着挙動を明らかにすることができた. 次に,より高性能なドナー分子の設計として,ジケトピロロピロール(DPP)骨格とアリール基を二つずつ導入したポルフィリンを合成した. DPPはそれ自体ドナー小分子として用いられるほどの光吸収特性をもつ.アリール基としてはフェニル基および4-ヘキシルフェニル基を採用した.2種類の分子について幾つかの素子作製条件を検討したところ,最終的に,4-ヘキシルフェニル基を持つ分子で,ピリジンを加えたクロロベンゼンを溶媒とした場合に,4.71%の変換効率を記録した.この値は,マグネシウムポルフィリンを用いた有機薄膜太陽電池では最も高い値である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定通り,TIPS基の除去と新規アリール基の導入に成功し,複数のポルフィリンドナー分子の合成を行った.これにより導入したアリール基の性質の違いを比較することができた.上述の通り,マグネシウムポルフィリンドナーではこれまでで最高の変換効率を達成することができ,計画していた研究を行うことができた.ピリジン添加素子中ではピリジンが重要な役割を持っていると考えられるが,その配位挙動や脱着,固体中での分子配列等の検討はまだ行えていないので,特に予定より進んでいるというほどではないが,次年度以降にこれらの検討を行う予定である.
|
今後の研究の推進方策 |
四つのエチニル基上に二つずつ二種類のアリール基を入れることに成功したので,今後はこの二種類の組み合わせによりどのように特性が変化するか,変換効率がより良くなるかに着目して検討を続ける.光吸収や電荷移動の面から,片方はDPP基であるのが良いと思われるが,これにはこだわらない.それ以外のアリール基としてはフェニルまたはチエニルなどの骨格が考えられるが,分子全体の分子軌道の準位をコントロールするための電子求引/供与基や溶解度向上のための長鎖アルキル基の導入などが必要である. 上述したようにピリジン分子の配位が溶媒への溶解性や素子特性に大きく影響を与えている.今後はこの効果についても詳細に調べる.ピリジン分子の配位挙動や固体中での分子配列の変化について,膜のモルフォロジーや吸収スペクトル,薄膜X線等により評価する.
|