研究課題/領域番号 |
16H04187
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松尾 豊 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任教授 (00334243)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ポルフィリン / 有機薄膜太陽電池 / ジケトピロロピロール |
研究実績の概要 |
本年度は,過去に報告したポルフィリン誘導体ドナーを更に高性能化することを目的とした.前年度に,二つのアリール基と二つのDPPユニット(ジケトピロピロールとチエニル基を含む)を導入したテトラエチニルマグネシウムポルフィリンを合成した.今年度はさらに,アリール基の種類を拡張し最終的に四種類(フェニル,4-ヘキシルフェニル,4-ジメチルアミノフェニル,4-トリフルオロメチルフェニル)の新規ポルフィリンを得た.これらについて太陽電池素子の作製や有機膜の分析を詳細に行った.素子性能としては,各種最適化の結果4-ヘキシルフェニル基を持つものについて,変換効率5.73%を達成することが出来た.この事は主にヘキシル基導入による溶解性とモルフォロジの向上が原因と考えられる.電子的な効果を期待した4-ジメチルアミノフェニル,4-トリフルオロメチルフェニルのそれぞれの置換基については,期待通りの電子軌道準位変化が見られたが,いずれも溶解性や膜性の問題で高変換効率は叶わなかった.また,置換基の効果は量子化学計算によっても説明することができた.これらの成果を,J. Mater. Chem. A, 2017, 5, 23067. として報告した. 本研究で主眼とするマグネシウムポルフィリンの特性を評価するため,ドイツの研究者の国際共同研究によりその励起状態の検討を行った.比較対象としては,太陽電池ドナーのポルフィリン錯体としては一般によく用いられている亜鉛ポルフィリンである.中心金属以外を同じ構造としたテトラフェニルエチニルポルフィリンを合成し,マグネシウムおよび亜鉛錯体でその光励起状態を測定したところ,亜鉛錯体では2.8 nsであったのに対しマグネシウム錯体では 7.4 nsと見積もられ,軽元素であるマグネシウムの光電変換素子材料としての優位性が確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定通り,複数のポルフィリン分子を合成し,その太陽電池向けドナー材料としての特性を評価することができた.中でも5.73%の変換効率はこれまでのマグネシウムポルフィリンドナーとして最高であり,その性能の起源を電気化学,計算科学,膜の評価など様々な角度から調査し,成果を論文としてまとめることが出来た. また,国際共同研究として,光励起状態をマグネシウムおよび亜鉛ポルフィリン錯体で比較し,マグネシウム中心金属の優位性を示すことが出来た. これらの結果を以て十分な進捗があったものと考える.
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今後の研究の推進方策 |
実用化を目指す有機薄膜太陽電池に用いる電子ドナー材料として,吸光係数が大きくかつHOMOが深いマグネシウムテトラエチニルポルフィリンを基本骨格とする新分子を開発する.これまで,二つのアリール基とDPP(ジケトピロロピロール)基を持つポルフィリンを開発しこれの特性を報告した.本年度は,さらにこの結果を進めて,分子に非対称性を導入することによる溶解度およびモルフォロジー変化に着目した検討を行う.また,最終年度である本年はさらに,バルクヘテロジャンクション型有機薄膜太陽電池のみならず,本プロジェクトで合成したポルフィリン分子の有機半導体材料としてのさらなる適用を試みる.具体的には,ペロブスカイト太陽電池におけるホール輸送層としての役割を模索する.これらの結果を受け,最終的に整理・総括したまとめを行う.
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