研究課題/領域番号 |
16H04188
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研究機関 | 豊田工業大学 |
研究代表者 |
山方 啓 豊田工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60321915)
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研究分担者 |
酒多 喜久 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (40211263)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 光触媒 / 欠陥 / 光励起キャリアー / 電子正孔再結合 / 時間分解分光測定 |
研究実績の概要 |
光触媒の活性を向上させるのに有効な方法の一つは触媒に不純物をドープすることである。つい最近、共同研究者の山口大学酒多教授らはGa2O3にCaとZnを共ドープすると、254 nmの紫外光における水分解の量子効率が70%を超えることを発見した。しかし、活性向上のメカニズムは分かっていない。そこで、時間分解可視近赤外中赤外分光法を用いて、光励起キャリアーの挙動を調べた。 まず、何もドープしないGa2O3のバンドギャップを励起すると、20000~15000 cm-1に負の吸収が観測された。これは光励起キャリアーの再結合に伴う発光である。また、5000~1000 cm-1に右肩上がりの構造の無いブロードな吸収が観測された。この吸収は伝導帯に励起された自由電子によるバンド内遷移、あるいは浅い欠陥に捕捉されたトラップ電子の伝導帯への遷移に帰属される。この結果は、Ga2O3の場合、大部分の電子は自由電子あるいは浅くトラップされた電子として残存していることが分かった。 次に、CaとZnを共ドープしてGa2O3に266 nmのポンプ光を照射して測定した過渡吸収スペクトルを測定した。バンドギャップを励起すると、1600 cm-1(~0.2 eV)付近にピークが現れると同時に5000~1000 cm-1の吸収強度が増加した。この結果は、Ga2O3にCaとZnを共ドープすると、浅い欠陥準位が形成され、電子の寿命が延びることを意味している。一方、何もドープしていないGa2O3で観測された20000~15000 cm-1の発光はドーピングにより消失した。この結果は、ZnやCaをドープすると、発光再結合を誘起するサイトが消失することを示唆している。次年度はフェムト秒時間分解分光装置を用いて、欠陥が及ぼす効果をさらに詳しく調べる計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Ga2O3にCaとZnを共ドープすると、伝導帯から約0.2eV低いところに新しい欠陥準位が形成され、それと同時に光励起キャリアーの寿命が長くなったことを新しく発見したことに大きな意味がある。従来欠陥は再結合を促進すると考えられてきたが、この結果は従来の予想とは逆であり、欠陥はむしろ光励起キャリアーの寿命を延ばす効果があることを示唆している。これらの結果は、光触媒活性を向上させるためには、適切な欠陥を導入することが重要であることを意味している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、CaやZnを単独でドープしたときや他の不純物をドープした際に欠陥準位やキャリアーの寿命がどのように変化するかを明らかにする計画である。また、フェムト秒時間分解分光装置を用いて光励起電子が欠陥に捕捉される初期過程を明らかにする。
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