研究課題/領域番号 |
16H04189
|
研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
塩井 章久 同志社大学, 理工学部, 教授 (00154162)
|
研究分担者 |
山本 大吾 同志社大学, 理工学部, 助教 (90631911)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 自己運動系 / マイクロシステム / 非平衡非線形 |
研究実績の概要 |
マイクロシステムの内部で進む物理化学的過程から,自律的に動力を発生するシステムの研究について,本年度は次の成果を得た。 微小空間で作用する自己運動系:「触媒粒子マイクロモーター」チャネル状やサークル状のマイクロ流路を用いて粗密波状の集団運動を制御した状態で観察できるようになり,これらが溶存物質濃度への化学走性効果で説明可能なことがわかった。「分子集合体系」実験方法の工夫により,pH勾配が分子集合体運動を駆動する時の力の大きさを評価できるようになり,生体分子モーターが生み出す力の大きさと比較可能となった。しかし,精密な定量性は十分であるとはいえない。「直流電場による運動系」電圧低減化のために低粘性溶媒を用いることや溶存電解質を変えることを試みた。低粘性溶媒では蒸発が早く十分なデータが得られなかった。電解質の濃度や種類では,電圧の低減化は十分ではなかった。 自己運動系に化学感知性や光応答性などの生物的機能を与えるための研究:「触媒粒子マイクロモーター」酸素濃度を可視化して走性を確認することを試みたが,十分な成果は得られなかった。一方,広い種類の有機燃料について研究を進め,次年度への準備を進めた。「分子集合体系」酸性方向に誘引される分子集合体の実現を目指して実験を行った結果,酸性溶液の拡散場で規則的に膨潤・収縮する分子集合体を見出すことができた。「直流電場による運動系」光感知性の系の研究を進めるための準備を進めた。 また,イオン感知性の運動をする水面上の油滴の同期現象や,油水界面の不安定性を利用した固体の自転運動について研究を進め,化学反応や物質移動で誘起されるミリメートルスケールの固体の自転運動を得ることができた。これとは別に,乱雑な振動場におかれた物体が形成する規則運動について研究を開始し,準備段階をほぼ終えた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
触媒粒子マイクロモーターと分子集合体系について,粗密波状の集団運動を制御できたことや酸性溶液の刺激下で規則運動するものを見出しており,これらは,多様な状況で働くマイクロシステム動力となり得る。したがって,次年度以降の発展に大きく寄与する。直流電場による運動系については,電圧の低減化が十分に達成されていないが,電極先端を近づけた状態で非常に高速の液滴往復運動を見出しており,この挙動を研究することで電圧低減化のための着想が得られるものと予想している。水面上の液滴運動系については,同期運動や固体の自転など,あらたな挙動を見出すことに成功しており,次年度からイオン感知性運動の研究へと展開できる。これらのことから,おおむね順調であると判断している。
|
今後の研究の推進方策 |
研究計画調書に記載したように,本申請計画は,微小スケールでの自己運動系に,化学物質感知性,光応答性,多体系での動的自己組織化などの生物的特性を付与し,微小システムでの動力源として発展させることを目指している。 現時点で,「触媒粒子マイクロモーター」,「分子集合体系」について,集団運動のコントロールや,酸性刺激への応答性などを実現しており,これらは,水面上の油滴運動とともに集団同期運動の研究ともなっている。運動の集団化は,エネルギー変換効率の増幅にとって本質的に重要であるが,このような多種類の集団運動が得られたことは,予想以上の成果であるといえる。これまでは,運動物体単独の挙動の研究に重点を置いていたが,本年度から比重を集団運動系に向けていくことを予定している。これは,「マイクロ空間での動力源」としての研究を目指す本課題において重要なことであると考えている。
|