研究課題/領域番号 |
16H04199
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
富永 洋一 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30323786)
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研究分担者 |
敷中 一洋 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00507189)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 固体高分子電解質 / イオン伝導性高分子 / Liイオン二次電池 / 二酸化炭素/エポキシド共重合体 / 無機フィラー / Liイオン輸率 |
研究実績の概要 |
本研究では、CO2/エポキシド共重合体(ポリカーボネート)型固体高分子電解質(SPE)の優れたイオン伝導特性に着目し、単体ポリマー同士では混ざらないエチレンオキシド(EO)成分とエチレンカーボネート(EC)成分からなる新しい共重合体を合成し、室温で10-3 S/cm以上のイオン伝導度かつ0.8以上のLiイオン輸率を達成するSPEの構成素材(共重合体・Li塩・無機フィラー)を決定し、セパレーター不要のフレキシブル電池の開発を目指すことを目標としている。本年度は、EO/EC共重合体の合成およびLi塩を含むSPEとしての基礎物性を明らかにすることを当該年次計画とし、研究を進めてきた。様々な共重合比率のEO/ECポリマーを複数合成するため、従来のコバルトサレン錯体、エーテル成分を多く含むEO/EC共重合体の合成に適しているダブルメタルシアニド触媒をそれぞれ用いた。高いイオン伝導度の発現が期待されるLiFSIの添加量を、EO成分に適した低濃度範囲(5~10 mol%程度)からEC成分に適した高濃度範囲(~200 mol%程度)まで幅広く変化させた。物性評価に関しては、複素インピーダンス法と直流分極法の併用による測定法から各種SPEのLiイオン輸率t+を決定した。既設の示差走査熱量計(DSC)を用い、イオン伝導度を左右する重要な物性であるガラス転移温度(Tg)を決定した。金属塩の溶解量によってTgが変化する共重合体に特有の現象を詳細に捉えるため、幅広い温度範囲(-100~200℃)での測定を試みた。さらに、各SPEの熱重量測定により5%重量減少温度を決定し、電解質膜の耐熱性評価もあわせて行った。LiFSIの溶存状態の解析は、FT-IR測定により行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
各触媒を用い、EO/EC比率の異なる共重合体(P(EO/EC))を複数合成した。全ての共重合体は1H-NMRによって構造を確認し、エーテル及びカーボネートに対応するメチレン基の水素の積分比から各比率を見積もった。GPC測定により単一ピークが得られていることから、共重合体が得られていることが確認された。様々なエーテル含有量の共重合体が得られる温度や時間などの重合条件と触媒との関係を整理した結果、P(EO/EC)のエーテル比率が低CO2圧力で高重合温度ほど多くなることが分かった。得られたP(EO/EC)にLiFSIを所定量加え、キャスト法によって電解質試料を作製した。熱重量測定の結果からは、エーテル比率が高いほどポリマーの5%重量減少温度が高く、共重合化によってエーテルの柔軟性がカーボネートに付与されため、ガラス転移温度(Tg)が低下することが分かった。エーテル比率が50%程度のP(EO/EC)電解質は、塩濃度の増加に伴ってイオン伝導度が上昇したが、エーテル比率が50~90%程度と高くなると、塩濃度の増加に伴ってイオン伝導度が低下するPEO型電解質の挙動が確認された。また、エーテル53%の電解質においても、低塩濃度で伝導度が一時的に低下する挙動が認められた。これらの電解質中での塩とポリマーの相互作用を確認するためにFT-IR測定を行った。しかしながら、エーテルが53%のP(EO/EC)においては、エーテル部とLiイオンの相互作用によって発現する1070 cm-1付近のピークが見られず、Liイオンとの相互作用が存在してないことが示唆された。一方で、カーボネート部はその伸縮振動のシフトからLiイオンと相互作用していることが確認された。従って、主鎖中ではカーボネートとLiイオンが優先的に相互作用していると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、さらにEO/EC比率の異なる共重合体を合成し、イオン伝導度及びLiイオン輸率に最も優れる共重合比率を決定する。これまでに、EO含有量が0, 20, 30, 53, 96%のP(EO/EC)共重合体の合成に成功しているが、いまだ合成例が少なく、イオン伝導特性に最も優れる共重合比率の決定には至っていない。次年度は、現在の合成計画を継続して進め、さらに多くの共重合体を合成して、そのSPEとしての物性評価を行っていく予定である。一方で、得られるSPEは、実電池への応用の際にセパレーターとしての機能も兼ねることが期待されるため、力学物性の評価が重要となる。本年度はSPEの力学物性の評価には至らなかったが、現状のLiイオン二次電池に使われているセパレーターと同等の引張弾性率5~7 MPa程度(PE多孔膜など)を数値目標とし、次年度以降に既設の引張試験機を用いて進めていく予定である。この力学物性は、次年度に予定している無機フィラー充填による向上効果も期待され、本数値目標の達成に向けた各種SPEおよび複合材料の予備実験から始める予定である。
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